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活性酸素種が植物の維管束再生を促す仕組みを発見 ~接ぎ木の新たな技術開発へ期待~
2026年09月29日
<概要>
帝京大学理工学部総合理工学科博士研究員 大場裕介、同学科教授 朝比奈雅志らの研究グループは、大阪大学大学院理学研究科教授 近藤侑貴、東京理科大学創域理工学部生命生物科学科教授、朽津和幸、東海大学生物学部教授 岩井宏暁、元筑波大学教授 佐藤忍との共同研究により、植物の茎が傷ついたときの維管束再生の仕組みの一端を解明しました。
植物は動くことができないため、昆虫の食害や強風により傷つくことがあります。茎が傷ついたときには、傷口のまわりの細胞が分裂して傷口を埋め、損傷した組織を再生させます。一方で傷ついたことを植物体全体に伝えるために、活性酸素種※1やカルシウムイオンが伝達物質として働きますが、これらの伝達物質が茎の傷を治す現象にどのような役割を持つかは、詳しく分かっていませんでした。
今回、研究グループは、傷ついたときに発生する活性酸素種が、損傷した維管束を再生させる初期段階に必要であることを突き止めました。茎の傷が治る現象は農業的な技術である接ぎ木の根幹となる現象で、今後新たな接ぎ木技術の開発への応用展開が期待されます。
本研究成果は、日本植物生理学会が発行する国際学術雑誌「Plant and Cell Physiology」に、9月24日9時(日本時間)に公開されました。
<ポイント>
〇 植物が傷ついた際に生産される活性酸素種が、傷害情報の伝達だけでなく、損傷した維管束の再生にも関与することを明らかにしました。
〇 茎の傷が治る過程において、活性酸素種が維管束再生の初期段階に必要であり、その生成に酵素RBOHDが関与することを明らかにしました。
〇 本成果は、植物の傷の治癒を利用する接ぎ木の理解を深め、新たな接ぎ木技術の開発や農業への応用につながることが期待されます。
<研究の背景>
植物は動物とは異なり動くことができず、様々な要因から傷つくことがあります。植物の茎は植物体を支えることや水や栄養分を植物体全体へと輸送する通り道となる器官であるため、茎が傷ついた場合には、生育に重大な影響を与えてしまいます。そのため、速やかに傷を埋めて、損傷した組織を再生していきます。茎の傷の再生過程では、植物ホルモンの一種のオーキシンが傷口付近で高蓄積することで、傷口まわりの細胞の分裂や損傷した組織の再生を促すことが分かっています。さらに蓄積したオーキシンは、転写因子であるArabidopsis NAC DOMAIN CONTAINING PROTEIN (ANAC)071、ANAC096を誘導し、これらのANACが働くことで傷口まわりの細胞分裂や水や栄養を輸送する維管束の再生を促しています。維管束の再生過程では、木部と篩部の間に位置する形成層※2細胞を増加させて、増加した形成層細胞が水を輸送する木部や栄養分を輸送する篩部へと分化し、損傷した維管束を作り直していきます。
また植物が傷ついたときには、傷ついたことを植物体全体に知らせるために活性酸素種やカルシウムイオンが伝達物質として働くことが知られていました。活性酸素種は、過剰に蓄積すると細胞に障害を与える一方、植物自身によって適切な場所やタイミングで生成され、さまざまな生理応答を調節するシグナルとしても働きます。さらに、活性酸素種は近年、植物の形態形成や発生に重要な因子であることが分かってきています。東京理科大学の朽津らの研究グループは、コケ植物ゼニゴケを用いた研究から、酵素Respiratory burst oxidase homolog (RBOH)※3によって生成される活性酸素種が、細胞の分裂・増殖、組織構造の維持、細胞分化を協調的に制御し、正常な形態形成に重要な役割を果たすことを明らかにしています。一方で、茎の傷の再生過程の維管束再生に活性酸素種がどのような役割を持つかについては、これまでに明らかとなっていませんでした。
<研究の内容>
本研究では、まずシロイヌナズナの花茎にマイクロナイフで傷をつけ、活性酸素種の発生量が減少した際の影響を調べました。活性酸素種の一種である過酸化水素の消去剤であるヨウ化カリウムを傷口に添加すると、維管束の再生に必要な形成層細胞の増加が抑制され、過酸化水素を添加すると増加しました(図1A)。さらに活性酸素種を生成する酵素RBOHDの遺伝子が欠損した変異体でも、同様に形成層細胞の増加が抑制されました(図1B)。この結果から活性酸素種の積極的生成が、維管束の再生に寄与していることが明らかとなりました。

図1. 活性酸素種の除去および、活性酸素種生成酵素RBOHDの欠損により、茎の傷害後の形成層細胞の増加が抑制される
また葉の葉肉細胞から維管束の細胞を人為的に作り出す"VISUAL※4"と呼ばれる方法を用いてアッセイを行ったところ、ヨウ化カリウムの添加により活性酸素種が減少した条件では、維管束細胞の形成が顕著に抑制されました。VISUALにおいては、葉肉細胞が脱分化※5し、前形成層がつくられ(誘導0~1日後)、前形成層から形成層幹細胞となり(誘導1~2日後)、維管束幹細胞が木部や篩部へと分化していきます(誘導2~4日後)。活性酸素種が維管束形成のどの段階に関与しているか調べるためにヨウ化カリウムの添加時期を変えてVISUALを行ったところ、誘導0~1日のヨウ化カリウム添加時のみ、維管束の形成が抑制されました(図2)。さらにVISUALの脱分化の段階を示すマーカー遺伝子の発現が、ヨウ化カリウム添加時に減少していました。この結果から活性酸素種は、維管束形成の脱分化段階という初期プロセスに寄与していると結論づけました。

図2. 誘導0~1日後のKI添加でVISUALによる維管束形成が抑制
これまでの研究からANAC071やANAC096が茎の傷を治す現象で重要な役割を持っているため、これらのANACと活性酸素種の関係性についても調べました。その結果、茎の傷が治る過程では、活性酸素種が減少してもANACの発現に影響はなく、ANAC071、ANAC096、ANAC011の遺伝子を同時に欠損した変異体では、活性酸素種の生産に影響はありませんでした。さらにANAC071、ANAC096は、活性酸素種の発生よりも後に遺伝子の発現が上昇していました。
以上のことから活性酸素種は茎の傷が治る過程において、ANACが働く前に機能し、維管束再生の初期段階に必要であることが明らかとなりました(図3)。

図3. 活性酸素種は維管束再生の初期段階に必要である
<研究の成果の意義>
本研究の重要な点は、傷害によって生じる活性酸素種が、傷害情報を伝えるシグナルとして働くだけでなく、損傷した組織を再構築する再生過程の初期段階にも重要な役割を果たすことを示した点です。
茎の傷が治る現象は農業的な技術である接ぎ木の根幹となる現象です。接ぎ木の成功には水や栄養素を輸送する維管束が、穂木側と台木側とでしっかりと連結することが重要となっています。本研究ではさらに、活性酸素種を生成する酵素RBOHDがこの過程に関与することが明らかになりました。今後、RBOHによる活性酸素種生成と維管束再生との関係をさらに解明することで、穂木と台木の維管束連結が向上する新たな接ぎ木技術の開発につながり、農業発展への貢献が期待されます。
また、今回の研究内容は、「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、「2. 飢餓をゼロに」、「15. 陸の豊かさも守ろう」に貢献することが期待されます。
<特記事項>
本研究は、科学研究費補助金(22H02647、23K27197、24H022501、19K06728、23K05806)、帝京大学先端総合研究機構チーム研究助成金(TeTe20-01)、令和4-6年度公益財団法人G-7奨学財団研究開発助成、第33回、34回、35回公益財団法人市村清新技術財団植物研究助成、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2124)の支援を受けて行われました。
本研究は、帝京大学のAPC補助を受け、オープンアクセス(CC BY -NC)で公開されております。
本研究成果は2026年9月24日(木)9時(日本時間)に「Plant and Cell Physiology」に掲載されました。
・タイトル:ROS function during the early phase of vascular regeneration in Arabidopsis.
(活性酸素種はシロイヌナズナにおける維管束再生の初期段階で機能する)
・著者:Yusuke Ohba※, Jiuyi Li, Ryosuke Sato, Keita Matsuoka, Yuki Kondo, Kazuyuki Kuchitsu, Shinobu Satoh, Hiroaki Iwai, Masashi Asahina※ (※Corresponding author)
大場 裕介 (帝京大学理工学部総合理工学科環境バイオテクノロジーコース 博士研究員)
(筑波大学大学院生命環境科学研究科*)
Li Jiuyi (筑波大学大学院生命環境科学研究科*)
佐藤 良介 (帝京大学理工学部バイオサイエンス学科 博士研究員*)
松岡 啓太 (帝京大学理工学部バイオサイエンス学科 博士研究員*)
近藤 侑貴 (大阪大学大学院理学研究科 教授)
朽津 和幸 (東京理科大学創域理工学部生命生物科学科 教授)
佐藤 忍 (筑波大学生命環境系 教授*)
岩井 宏暁 (東海大学 生物学部 教授)
朝比奈雅志 (帝京大学理工学部総合理工学科環境バイオテクノロジーコース 教授)
(帝京大学先端機器分析センター 教授)
*研究当時または以前の所属
・DOI:DOI 10.1093pcppcag120
・URL:https://academic.oup.com/pcp/article-lookup/doi/10.1093/pcp/pcag120
<用語説明>
※1活性酸素種;酸素から生じる反応性の高い分子の総称で、スーパーオキサイド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどが含まれる。ストレスを受けると生産され、過剰に蓄積すると細胞に障害を与える一方、植物の成長・発生や環境応答を調節するシグナルとしても働く。
※2 形成層(維管束形成層);維管束組織の木部と篩部の間に存在する分裂組織。未分化な維管束幹細胞があり、新たに木部細胞や篩部細胞を生み出す。
※3 RBOH(Respiratory Burst Oxidase Homolog);植物において活性酸素種を生成する酵素。本研究では、シロイヌナズナのRBOHDを欠損すると、傷害後の形成層細胞の増加が抑制されることが明らかになった。
※4 VISUAL; Vascular cell Induction culture System Using Arabidopsis Leavesの略で、大阪大学大学院理学研究科の近藤侑貴教授の研究グループにより2016年に開発された手法。シロイヌナズナの芽生えを複数の植物ホルモンと化合物を含む培地で培養することで、葉肉細胞から維管束細胞を人工的に生み出すことができる。
※5脱分化; 一度分化した細胞が、再び分裂・分化能力を獲得すること。
<参考文献>
令和3年3月19日帝京大学・神戸大学・筑波大学プレスリリース「植物が持つ高い自己治癒力の仕組みを解明~移動できない植物が獲得した巧みな生存戦略~」 Matsuoka et al. 2021, Communications Biology
令和8年6月26日東京理科大学プレスリリース「植物が秩序だった形をつくるための活性酸素の役割を解明~活性酸素種を能動的に生成する酵素が細胞の分裂・分化を協調的に制御する~」Yamashita et al. 2026, Current Biology
平成28年5月20日東京大学プレスリリース「維管束の細胞を作り出す方法"VISUAL"の開発」Kondo et al. 2016, The Plant Cell.
【本件に関する問い合わせ先】
<研究に関すること>
帝京大学理工学部総合理工学科環境バイオテクノロジーコース
教授 朝比奈 雅志(あさひな まさし)
<報道に関すること>
帝京大学本部広報課
Tel; 03-3964-4162
大阪大学理学研究科庶務係
Tel; 06-6850-5280
東京理科大学広報課
Tel; 03-5228-8107
東海大学札幌キャンパス総務担当
Tel; 011-571-5111

