【研究発表】 基板を替えるだけで同じ薄膜素子を「電源」と「熱センサ」に使い分け ~冷却装置なしで作動するカーボンナノチューブ熱電素子を開発~

2026年08月07日

 東海大学[湘南キャンパス]工学部応用化学科の高尻雅之教授の研究グループは、単層カーボンナノチューブ(単層CNT*1を用いた熱電素子に関する研究を行い、基板を替えるだけで同じ薄膜素子を「電源」と「熱流センサ」*2として使い分けられることを明らかにしました。本研究成果は、2026731日に、材料科学から生命科学まで幅広い分野を対象とする国際学術誌『Advanced Science』のオンライン版に掲載されました。

 

<ポイント>

・基板を替えるだけで、同じ構造の素子が「発電を続ける電源」と「熱の変化を捉えるセンサ」に切り替わる。決めているのは、基板の赤外線の吸収しやすさと温まりにくさの二つ。

・全体を一様に温めるだけで、素子の内部に温度差が生じて発電する。片側を冷やし続ける必要がない。

・センサとしての感度は、1対のpn接合*4あたり45 μV/K。工場で広く使われるK型熱電対(41 μV/K)と同程度である。

・直径32 mmのパイプに100回巻き付けても性能が落ちない。曲面に貼ることができる。

・大気中で721日(約2年)性能を保つnCNTの安定化技術が土台にある(研究グループ調べで世界最長)。

 

  従来の熱電素子*3は、熱を電気に変えるために片側を高温、もう片側を低温に保つ必要がありました。低温側を維持するには冷却板やファンが必要となるため、設置場所や用途が限られるという課題がありました。また、基板は薄膜を載せるための台として扱われ、素子の働きを決める役割については十分に明らかになっていませんでした。

 そこで、研究グループは、全体を一様に温めるだけで作動する単層CNT薄膜素子を作製し、薄膜を貼り付ける基板を3種類に替えて比較しました。その結果、薄膜や回路、貼り付け方が同じであっても、基板を替えるだけで素子の働きが変化することを確認しました。赤外線を通す基板(COP)では電圧が一定の値で持続して電源として働き、赤外線を吸収する基板(PEN)では温度が変化している間だけ逆向きの電圧が生じ、熱の流れの変化を捉える熱流センサとして働きます。

 さらに、本研究では、基板が赤外線をどの程度吸収するか、またどの程度温まりにくいかという二つの性質が、素子の働きを決めることを明らかにしました。いずれの基板でも素子内部に13℃の温度差が自然に生じるため、従来のように片側を冷やす装置は必要ありません。

 

 

 

図1.png

■研究の概要

 今回開発した素子は、電気を運ぶ性質が異なる二つの領域を一つの薄膜の中でつないだ構造をしています。素子の中央部分が周囲より高温になるかによって電気の流れる向きが変わるため、発生する電圧の向きも変化します。この違いが、「電源」と「熱流センサ」という二つの働きを生み出します。

 その鍵となるのが基板です。単層CNTの薄膜は赤外線をほぼすべて吸収しますが、基板が赤外線を吸収する割合は材質や厚さによって異なります。

 COPは赤外線を45.8%通します。赤外線が基板を通り抜けて薄膜を直接温めるため、素子中央部が高温となり、電源として働きます(図1の左)。一方、赤外線を吸収しやすいPEN基板(透過率0.20%)では、基板が先に温まることで素子中央部が相対的に低温となります(図1の右)。ただし、この状態は素子全体の温度が揃うと解消するので、電圧は温度が変化している間だけ現れます。

 また、電圧が現れる時間の長さは、基板の温まりにくさによって決まります。PENはPIより厚く比熱も大きいため、温度が均一になるまでに時間がかかり、その分だけ大きな電圧が生じます。つまり、この素子の働きは、基板が赤外線をどれだけ吸収するか(電圧の向きを決める)と、基板がどれだけ温まりにくいか(電圧の大きさや持続時間を決める)という二つの性質によって決まることを明らかにしました。

 

※素子はホットプレートに接しているため、熱は接触による伝導でも伝わります。ただし伝導の条件は3種類の基板で共通であり、基板ごとに結果が変わる原因にはなりません。計算上、基板の光学特性だけを同一にすると電圧の向きの反転が消えることから、赤外線の吸収の差が主な原因であることを確かめています。

図2.png

■想定される用途

 本技術は、外部電源や冷却装置を必要としないため、設置場所の制約が少なく、さまざまな環境への応用が期待されます。例えば、COP基板を用いた発電素子とPEN基板を用いたセンサ素子を同じ熱源上に組み合わせることで、電池を使わずに熱の流れを監視するシステムの構築が可能になります。主な用途としては、次のような場面が想定されます。

 

・配線が難しい設備の外壁に設置し、放熱状態を監視する

・電気自動車の電池パックやデータセンターの設備で、異常発熱を早期に検知する

・柔軟性を生かし、機器や人体などの曲面に貼り付けて利用する

 

 なお、本研究で用いた素子は樹脂の基板を使用しているため、使用できる温度には上限があります。今回の動作確認は約52 ℃で実施しました。

■今後の課題・展望

 現時点では、出力電圧は0.38 mV、出力電力は0.47 nWにとどまっています。無線通信素子などを駆動するためには、素子を100対ほど直列に接続し、昇圧回路と組み合わせる必要があります。今回の研究では、冷却装置を用いずに、基板を替えるだけで発電と熱センシングを切り替えられることを実証しましたが、実用化にはさらなる性能向上が必要です。

 今後は、出力の向上に加え、封止技術による長期信頼性の確保や、実際の使用環境を想定した加熱・冷却の繰り返し条件での性能評価を進めます。

 本研究成果に基づく素子は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催の「大学見本市2026~イノベーションジャパン」(2026年8月27日・28日、東京ビッグサイト南1ホール)に出展する予定です。

■掲載論文

◇雑誌名:Advanced Science(2026年7月31日、論文番号 e76889)

◇論文タイトル:Substrate Engineering of SWCNT p-n Junctions for Dual-Mode Power Generation and Heat-Flux Sensing(単層カーボンナノチューブp-n接合の基板エンジニアリングによる発電・熱流センシングの二機能化)

◇著者:玉井涼太、中山大翔、落合秀弥、高尻雅之*(いずれも東海大学、*は責任著者)

◇掲載日:2026年7月31日(オンライン先行公開)

◇DOI:10.1002/advs.76889

 

<研究者のコメント>

東海大学工学部応用化学科 教授 高尻雅之

 電圧の向きが逆になったとき、最初は測定の誤りを疑いました。しかし、薄膜も回路も同じで、原因は基板しかありません。これまで薄膜を支える台として考えていた基板が、実は素子の働きを決める重要な役割を果たしていたことが分かりました。熱電素子は冷却側が必要という制約があり、設置場所が限られていました。冷却装置が不要になれば、設置できる場所を選ばないということです。工場の配管や電池パックの表面などに貼り付けるだけで、熱の異常を検知できる。そうした素子につなげていきたいと考えています。

【用語解説】

*1 単層カーボンナノチューブ(単層CNT 炭素シートを一層だけ筒状に巻いた、直径がナノメートル級の物質。軽量で柔らかく、電気と熱をよく通す。重金属を含まないため、環境負荷の小さい熱電材料として注目されている。

*2 熱流センサ 物体を出入りする熱の流れ(熱流束)を電圧として検出する素子。異常発熱や放熱不良の早期検知に用いられる。本研究では、赤外線の入射が急に変わったときに現れる過渡的な電圧をこれにあたるものとしている。

*3 熱電素子(ゼーベック効果) 材料の両端に温度差を与えると電圧が生じる現象を利用し、熱を電気に直接変換する素子。温度差1 Kあたりに生じる電圧をゼーベック係数といい、マイクロボルト毎ケルビン(μV/K)で表す。

*4 pn接合 正の電荷(正孔)が電気を運ぶp型の領域と、負の電荷(電子)が電気を運ぶn型の領域とを接合した構造。熱電素子では、両者を直列につなぐことで発生する電圧を大きくできる。

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学 学長室広報担当:喜友名、林

 TEL.0463-63-4670(直通) E-mailupr@tokai.ac.jp

 

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