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自動培養技術を活用した次世代同種軟骨細胞シートの開発 ~変形性膝関節症を対象に臨床研究開始、均質・大量製造の実現目指す~
2026年03月16日
東海大学医学部付属病院 整形外科の佐藤 正人教授(医学部医学科外科学系整形外科学)は、株式会社日立製作所および株式会社日立ハイテクの支援のもと、変形性膝関節症に対する再生医療「次世代同種軟骨細胞シート」の臨床研究を実施しております。次世代同種軟骨細胞シートは、多指症手術で廃棄されていた乳児の軟骨組織由来の細胞(同種細胞)を用い、閉鎖系の細胞自動培養装置を用いて数十名分の軟骨細胞シートを一括製造できる点が特長です。2025年6月より開始した臨床試験では、50~60歳の変形性膝関節症患者4名に対して移植手術を実施し、2026年2月時点で重篤な有害事象は認められておらず、現在も臨床試験を継続しております。
<ポイント>
・変形性膝関節症の軟骨欠損に、培養した軟骨細胞を"シート状にして貼り付ける"関節温存型の再生医療。
・日立ハイテク製細胞自動培養装置「iACE」で次世代同種軟骨細胞シートを製造:1回の培養で約640枚(理論上約50人分)を一度に製造可能。
・工程の自動化により、品質の均質化(ロット差低減)、トレーサビリティ確保、量産化による供給体制の確立を目指す。
■研究の背景
変形性膝関節症は、加齢とともに増加する代表的な運動器疾患であり、国内の患者数は約2,530万人、そのうち痛みなどの症状を有する人は約800万人にのぼると推定されています。関節軟骨は一度損傷すると自然修復が困難であり、現在の治療は主に痛みの軽減や機能改善を目的とした保存療法が中心です。しかし、病状が進行した場合には人工関節置換術などの外科的治療が必要となります。そのため、人工関節に過度に依存することなく関節機能を可能な限り温存しながら、軟骨欠損を生物学的に修復する新たな治療法の確立が強く求められています。
■軟骨細胞シートとは
培養した軟骨細胞を、細胞外マトリックスや細胞同士の結合を保ったまま、絆創膏のような"シート状"に加工した細胞加工物です。このシートを軟骨の欠損部に直接移植することで、患部に定着しやすくなり、欠損部の保護と軟骨の修復を促すことが期待されています。
■自己軟骨細胞シート→同種軟骨細胞シート→次世代同種軟骨細胞シート(NACS) ~開発の連続性~
本学は2011年から「自己軟骨細胞シート」の臨床研究に取り組んできました。8例の臨床研究を実施し、安全性と有効性を確認(Sato M et al., npj Regenerative Medicine, 2019)。この成果をもとに、2019年から厚生労働大臣が定める先進医療(先進医療B)として治療を開始しました。一方で「自己軟骨細胞シート」には、いくつかの課題もありました。細胞を採取するための手術が必要なこと、患者ごとに細胞の品質にばらつきが生じる可能性があること、そして一度に提供できる細胞シートの量に限りがあることなどです。
そこで2017年からは、多指症手術で廃棄される軟骨組織を活用した「同種軟骨細胞シート」の臨床研究を実施。多指症由来の軟骨細胞は幼若なため、高い増殖能を有しており、シート作製期間を7日短縮できるなど、安定的かつ効率的な供給体制の構築において優位性を示しています。臨床研究では、変形性膝関節症患者10例を対象に安全性と有効性を評価し、いずれの観点においても良好な経過が確認されました(Hamahashi K et al., npj Regenerative Medicine, 2022)。本研究は独立行政法人医薬品医療機器総合機構によりphase 1/2相当と位置づけられ、2025年から第Ⅲ相試験(企業治験)が始まっています。
■次世代同種軟骨細胞シートの特長:自動培養で"均質に、たくさん"作る
変形性膝関節症は患者数が多く、軟骨細胞シートの普及には大量製造と品質の標準化が不可欠です。従来の同種軟骨細胞シートは、温度応答性培養皿を用いる工程や細胞培養の熟練者の手作業を要し、生産効率・コスト・取り違え等のリスクが課題でした。次世代同種軟骨細胞シートでは工程を見直し、閉鎖系システムである細胞自動培養装置「iACE」での製造に適したプロセスへ改良しました。2023~2024年の非臨床試験(免疫不全動物の軟骨欠損モデルへ次世代同種軟骨細胞シートを移植)では、iACEで製造した次世代同種軟骨細胞シートが従来法と同等の軟骨修復能を示すことを確認しています。この装置では、1回の培養で約640枚を製造できるため、従来の使用実績(1症例あたり約10~15枚)から理論上約50人分に相当します。

■臨床研究の概要(次世代同種軟骨細胞シート移植試験)
| 開始 | : | 2025年6月(再生医療等安全性確保法に基づく第一種再生医療等提供計画) |
| 対象 | : | 20~60歳の変形性膝関節症患者4名(主要評価項目:安全性、副次評価項目:有効性) |
| 方法 | : |
iACEで製造した次世代同種軟骨細胞シート(工程内安全性検査・規格試験に合格)を、 脛骨近位骨切り術(HTO)と併用して1人あたり10~15枚を移植 |
| 経過 | : | 2026年2月時点で重篤な有害事象なし。観察期間1年で追跡評価を継続中 |
■本研究の意義と今後の展望
自動培養による次世代の同種軟骨細胞シートの製造体制が確立されれば、品質の均一な細胞シートを安定的に供給できる可能性が高まります。これにより、変形性膝関節症に対する「関節を温存する治療」という新たな選択肢の拡大が期待されます。
また、製造工程の自動化やトレーサビリティ(製造履歴の追跡体制)の強化は、再生医療の安全性と信頼性の向上につながります。さらに、将来的な多施設での導入・展開を見据えた生産基盤の構築にも貢献するものと考えられます。
■学会発表予定
本研究成果は、第25回日本再生医療学会総会(2026年3月19日~20日、神戸)で発表予定です。
| ① | ポスター | : |
前原 美樹(東海大学) P-11-16/ポスター11「細胞移植治療1」 〔2026年3月19日(木)10:40-11:40(神戸国際展示場2号館1階コンベンションホール)〕 |
| ② | 一般口演 | : |
新見 夕姫(日立製作所) O-09-6/一般口演 09「細胞培養装置・基材1」 〔2026年3月19日(木)10:40-11:40(神戸国際会議場 5 階 会議室502)〕 |
| ③ | シンポジウム | : |
佐藤 正人(東海大学)シンポジウム23「運動器の再生医療の現状と展望」 〔2026年3月20日(金・祝)8:30-10:30(神戸国際展示場1号館2階 展示室B )〕 |
注記:本件は臨床研究段階の取り組みであり、一般診療として広く提供できる段階ではありません。
<研究に関するお問い合わせ>
東海大学医学部医学科外科学系整形外科学 教授 佐藤正人
TEL. 0463-93-1121(代表)
<本件に関するお問い合わせ>
東海大学医学部付属病院事務部事務課(広報)
TEL.0463-90-2001(直通) E-mail:prtokai@tokai.ac.jp

