高強度運動後の「汗中乳酸」と「血中乳酸」の関連性を検証 ~ウェアラブルデバイスでアスリートの代謝を非侵襲的に計測~

2025年09月10日

 東海大学[札幌キャンパス]国際文化学部地域創造学科の服部正明特任教授を代表とする研究チームは、高強度運動後に分泌される「汗中乳酸濃度」と血液中の「血中乳酸濃度」との関連性を、非侵襲かつ連続的に計測できるウェアラブルデバイスを用いて世界で初めて統計的に検証しました。

 本研究の成果をまとめた論文が、2025730日に国際誌『Open Access Journal of Sports Medicine』に掲載されました。

■研究の背景

 アスリートのコンディション管理やパフォーマンス向上において、血液中の「乳酸濃度」は重要な指標となります。しかし、従来の乳酸測定では、血液を採取する侵襲的な方法が一般的でした。この測定方法は痛みを伴うため、頻繁な測定が難しく、アスリートへの負担も大きいことが課題となっていました。

 本研究では、この課題を解決するため、運動時の「汗」に含まれる乳酸に着目。株式会社グレースイメージングが世界で初めて開発した、汗中の乳酸値を計測できるウェアラブルデバイス「GSM-00013」を用いて、「汗中乳酸濃度」を連続的に計測し、血液採取を行わず血液中の乳酸を推定できる可能性を検証しました。

 

■研究成果とポイント

汗と血液の乳酸変化を"同時測定"

 高強度運動を行ったアスリートを対象に、ウェアラブルデバイスで汗中乳酸と発汗量を連続的に計測すると同時に、血中乳酸値についても採血により随時測定を行いました。このように「同時測定」を行うことで、汗と血液における乳酸動態を時間軸上で正確に比較することが可能となりました。

 

汗中乳酸が血中乳酸の動態を予測

 時系列解析を行った結果、汗中乳酸と発汗量を組み合わせることで、一定のタイミングで血中乳酸の上昇を予測できることが統計的に示されました。これは、非侵襲的な汗のデータだけで、アスリートの疲労度や代謝状況を把握できる可能性を示唆するものです。

 

アスリート支援への新展開

 今回の研究は、血液採取を伴わない乳酸モニタリングが現実的であることを示しました。これにより、運動負荷の最適化、競技力向上、疲労管理など、アスリート支援に幅広く応用できると期待されます。

 

 

■今後の展望

 今回の研究はパイロットスタディとして実施され、被験者数は限定的です。今後は、より多くの被験者を対象に、運動種目・性別・環境条件を拡大してデータを蓄積し、アルゴリズムの精度向上と現場での実用化に向けた検証を進めていきます。

 将来的には、汗を活用してアスリートの骨格筋代謝能力を非侵襲的に評価する、スポーツ科学の新しいツールとしての実用化を目指します。

 

■論文情報

タイトル

Short Report:Estimating Blood Lactate Dynamics from Sweat Lactate and Sweat Rate After High-Intensity Exercise - A Pilot Regression-Based Study

著者

服部正明(東海大学国際文化学部地域創造学科 特任教授)

掲載雑誌

Open Access Journal of Sports Medicine

発行日

2025年7月30日

DOI

https://doi.org/10.2147/OAJSM.S534243

 

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<研究に関するお問い合わせ>

東海大学 国際文化学部地域創造学科 服部 正明

TEL. 011-571-5111(代表)

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学札幌カレッジオフィス 田中

TEL. 011-571-5111(代表)

 

 

 

 

 

 

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