【研究発表】 本学大学院生、マナマコ養殖技術に新たな知見 ~小型ナマコにおける「夏眠」の存在を解明、持続可能な養殖への第一歩~

2025年06月04日

 東海大学[札幌キャンパス]大学院総合理工学研究科2年次生の田中海(北海道地域研究センター特定助手)は、これまで成長の停滞や内臓の退縮、活動の低下を伴う「夏眠」は起こらないと考えられていた小型ナマコ(稚ナマコ)において、体長15.4mmを超えると夏眠が見られることを明らかにしました。特に、体長35mm以上の個体では夏眠の影響がより顕著に現れることが判明し、今後のナマコ養殖における管理方法の見直しに重要な示唆を与える成果と言えます。

 本研究成果は、「令和6年度日本水産学会北海道支部大会」(2025年1月11日開催)において発表され、「最優秀学生講演賞」を受賞しました。

 

<本研究成果のポイント>

希少な水産資源マナマコの持続可能な増養殖に向けて:絶滅危惧種に指定されているマナマコの資源回復のため、増養殖技術の確⽴が急務となっている。
小型ナマコも夏眠する:成⻑停滞、内臓の退縮、活⼒低下を伴う夏眠は、これまで⼩型個体には起こらないと考えられていた。
体長15.4mm以上で夏眠を確認:本研究により、体⻑15.4mm以上に成⻑した⼩型ナマコも夏眠を行うことが実証された。
大型個体ほど影響が顕著:特に体⻑35mm以上の個体では、夏眠による成長の停滞がより顕著に現れることが推察された。
小型個体飼育への新たな視点:この発見は、ナマコ養殖において、⼩型個体の飼育段階から夏眠を考慮した管理の必要性を示唆している。
学会で最高評価:本研究成果は 2025111⽇に開催された日本⽔産学会北海道⽀部⼤会で高く評価され、「最優秀学⽣講演賞」を受賞した。

研究の背景と目的

 マナマコ(Apostichopus japonicus)は、日本を含む東アジア沿岸域に広く分布し、高価で取引される重要な水産資源です。しかし、近年は過剰な漁獲により資源量が減少し、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。そのため、資源回復に向けた種苗生産や養殖技術の確立が重要な課題となっています。

 

 マナマコは、夏季に成長の停滞、内臓の退縮、活動の低下といった行動学的・生理学的変化を伴う「夏眠」を行うことが知られています。従来の知見では、小型ナマコ(稚ナマコ)は夏眠を行わないと考えられてきましたが、一部の飼育例において成長の停滞や活動の停止が観察されていました。そこで本研究チームは「小型ナマコも、特定の体長を超えると夏眠を開始するのではないか」との仮説を立て、その検証を目的として本研究に取り組みました。

 

研究の概要と成果

マナマコ.jpg 本研究では、体長9.4mmから149.1mmまでのさまざまなサイズのマナマコ43個体を1トン水槽に収容し、水温などの飼育環境を自然に近い状態に保ちながら、2024年7月から10月にかけて夏眠の有無とその前後の行動を観察しました。

 

 その結果、体長15.4mm以上の個体で夏眠が確認され、これまで小型ナマコは夏眠しないとの従来の通説を覆す発見となりました。特に、体長35mm以上の個体では、それ以下のサイズの個体と比較して、夏眠に入る個体の割合が増加する傾向が明らかになり、成長の停滞がより強く見られることが予測されました。夏眠の継続期間は平均2~3日程度であり、成体ナマコに見られる夏眠行動と類似していました。これらの観察結果から、小型ナマコにおいても、成体ナマコと同様に夏眠と移動を繰り返す可能性が示唆されました。

 

 これらの研究成果は、マナマコ養殖において、小型個体の飼育段階から夏眠の影響を考慮し、水温管理や給餌方法などの飼育環境を適切に管理する必要があることを示しています。

 

今後の展望と期待

 これまで、人工飼育における小型ナマコの成長不良や生存率の低下は、その要因が十分に解明されていませんでした。しかし、本研究によって、その一因として夏眠が深く関与している可能性が示されました。この新たな知見は、今後のナマコ養殖の効率化と生産性向上に貢献する重要な一歩になると期待されます。

 今後は、夏眠を引き起こすメカニズムのさらなる解明を進めるとともに、夏眠の影響を最小限に抑えるための具体的な飼育管理方法の開発を目指します。本研究が、持続可能なマナマコの増養殖技術の発展に寄与し、資源の保全と水産業の発展の両立に貢献することを期待しています。

 

 

 

<本研究に関するお問い合わせ>

東海大学 大学院総合理工学研究科 田中海

TEL.011-571-5111(代表)

 

<本リリースに関するお問い合わせ>

東海大学札幌カレッジオフィス 田中

TEL. 011-571-5111(代表)

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