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【研究発表】 新発見!青い天使「アオミノウミウシ」、悪魔の手「ミノ」で捕食 ~体内に取り込んだクラゲの毒針 外敵からの防衛だけでなく餌の捕獲にも活用か!?~
2025年03月18日
新江ノ島水族館の山本岳飼育員および東海大学[札幌キャンパス]生物学部生物学科の小口晃平講師を代表研究者とする共同研究チームは、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の金井直樹氏、三浦徹教授らとともに、軟体動物の仲間である「アオミノウミウシ」が側方突起「ミノ」*1を「手」のように使って魚やクラゲを捕食していることを発見しました。この研究成果は、2025年3月17日に「Ecology」に掲載されました。
<本研究のポイント>
- アオミノウミウシは、猛毒の刺胞を持つカツオノエボシを捕食し、その刺胞を側方突起(ミノ)の先端に取り込むことで防衛に使っていると考えられてきたが、その詳しい利用方法は未解明であった。
- 水族館での飼育や行動観察によって、アオミノウミウシが側方突起をまるで手(触手)のように用い、餌生物を捕獲し捕食することを発見。
- 従来、アオミノウミウシの餌は、カツオノエボシなどの刺胞動物だと考えられてきたが、魚など、さまざまな生物種も捕食することを発見。
- 取り込んだ刺胞を防衛だけでなく捕食に用いることを示唆するとともに、今まで見つかってこなかった隠れた食物網が明らかにされることが期待される。
- 本研究成果は2025年3月17日に「Ecology」に掲載
■研究背景
軟体動物の仲間で、その姿形から「青い天使」とも呼ばれるアオミノウミウシは世界中の海表面を浮遊しながら生活し、猛毒生物であるカツオノエボシ*2などを捕食することが知られています(図 1)。アオミノウミウシなどミノウミウシ類の多くの種では、捕食した刺胞動物の毒針「刺胞」を消化せずに体内に取り込み、"武器"として捕食者からの防衛に利用する「盗刺胞」*3を行うことが確認されています。アオミノウミウシは盗んだ刺胞を体から伸びる側方突起(ミノ)の先端に貯蔵することが知られていましたが、ミノや盗刺胞の防衛以外の役割は明らかになっていませんでした。
■研究成果
本研究では、アオミノウミウシのミノや盗刺胞の機能への理解を深めるために、行動観察やさまざまな生物を与える実験を行いました。その結果、アオミノウミウシが体の前方のミノをまるで「手」のように使い、魚(シラス)を捕食する行動が見られました(図2)。これにより、ミノが外敵からの「防衛」だけでなく餌の「捕獲」にも役立っていることが明らかとなりました(図3)。また、同様の行動はシラスだけでなく、さまざまなクラゲに対してもなされていることが確認できました。これまで知られていたカツオノエボシなどの刺胞動物だけでなく、魚を含むさまざまな生物種も捕食することを示しており、アオミノウミウシがより広範な食性へと進化した可能性が示唆されます。
■今後の展望
アオミノウミウシは、その美しい姿や、猛毒クラゲを捕食する食性から、たびたび注目を集めてきた生物です。しかし、長期的な飼育が難しく、その発生や生態の多くは未だ謎に包まれています。今後の研究では、実際に自然界で捕食している生物の解明や、盗んだ刺胞をどのような仕組みで有効活用しているのかを明らかにしたいと考えています。
■論文情報
タイトル |
: |
Blue angels have devil hands: predatory behavior using cerata in Glaucus atlanticus |
著者 |
: |
山本 岳(新江ノ島水族館)、金井 直樹(東京大学 大学院理学系研究科 附属臨海実験所)、三浦 徹(東京大学 大学院理学系研究科 附属臨海実験所)、小口 晃平(東海大学 生物学部生物学科) |
掲載雑誌 |
: |
Ecology |
DOI |
: |
10.1002/ecy.70062 |
動画 |
: |
【用語説明】
*1側方突起(ミノ)
アオミノウミウシの体の左右に生えている突起構造。多くのミノウミウシでは背側に突起が生えているが、アオミノウミウシでは体の側方に生えている。突起の先端には刺胞を蓄える構造(刺胞嚢)がある。
*2カツオノエボシ
刺胞動物門ヒドロ虫綱クダクラゲ目Physalia属に属するクラゲの仲間。世界中に広く分布し、非常に強い毒を持ち、海水浴場等でヒトを刺傷する。
*3盗刺胞
ミノウミウシなどに見られる特殊な防御戦略であり、捕食した刺胞動物の毒針(刺胞)を消化せずに自らの体内に取り込むことで、外敵に対する防御に利用している。
<研究に関するお問い合わせ> 小口 晃平 東海大学 生物学部生物学科(2025年3月31日まで) TEL.011-571-5111(代表) 東京大学大学院理学系研究科(2025年4月1日から) TEL. 046-881-4105
<本件に関するお問い合わせ> 東海大学 ウチムラカンゾウカレッジ札幌オフィス(2025年3月31日まで) 田中 滋樹 TEL.011-571-5111(代表)
東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室(2025年4月1日から) TEL. 03-5841-8856
新江ノ島水族館 広報担当 井上 麻子 TEL. 0466-29-9963(広報直通) |