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【お知らせ】 本邦初、拡大マススクリーニングで診断されたハーラー症候群患児への 同種臍帯血移植に成功 ~早期診断可能なマススクリーニング、治療体制の充実待たれる症例に~
2024年11月05日
東海大学医学部付属病院小児科 (山本将平准教授らの血液腫瘍性疾患診療グループ)では、新生児拡大マススクリーニングにより本邦で初めて新生児期に診断されたムコ多糖症1型(ハーラー症候群)に対して、心機能不全を合併しながらも同種臍帯血移植(造血細胞移植)に成功しました。本移植の成功は、早期診断と高度な医療技術の融合により、将来の中枢神経障害の進行を防ぐことが期待されています。なお、同患児は11月上旬、無事退院しました。
<ムコ多糖症1型(ハーラー症候群)とその課題>
ハーラー症候群は、ライソゾーム酵素であるα-L-iduronidase(IDUA)の先天的欠損により発症する重篤な先天性疾患です。身体各所にムコ多糖が蓄積することで、特異的顔貌、精神運動発達障害、骨形成不全、心臓弁膜症などの全身の症状を引き起こし、無治療では15歳前後での死亡リスクが高いとされています。新生児期に診断されることは稀で、通常は症状が現れる4歳前後に診断される疾患です。治療方法には、酵素補充療法と造血細胞移植があり、特に移植は中枢神経症状発症前に行うことで中枢神経障害の進行を防ぐことが期待されています。しかし、心機能不全などの合併症により移植が困難となる場合があり、早期の診断と治療体制の整備が重要とされています。
<本症例の概要と移植成功までの経緯>
本症例は自治体主導の拡大マススクリーニングによって新生児期に診断されたハーラー症候群であり、心不全を合併していたために造血細胞移植が一時困難とされました。患者は診断後すみやかに補充療法を開始し、心機能の改善を待って移植を検討。保護者は早期の移植を望まれていましたが、さらなる心機能の低下を認めたため移植困難と考えられました。当病院小児科は、ムコ多糖症や副腎白質ジストロフィーに対する全国で最多の造血細胞移植の実績を持つ医療機関として、1歳3カ月の段階で同種臍帯血移植の実施を決定。院内倫理委員会において倫理的側面を十分に考慮したうえで、保護者の希望に沿って慎重に進めました。
移植時には小児循環器医師の管理のもと、厳重な循環動態管理を行い、感染症予防対策も徹底。順調に生着が確認され、心機能の改善も認められました。その後、免疫抑制剤を調整しながら退院準備を進め、11月上旬に無事退院されました。
<拡大マススクリーニングと治療体制整備の課題>
本症例は、拡大マススクリーニングにおける早期診断がもたらす期待とともに、診断後の治療体制の整備の重要性を再認識させるものでした。早期診断が可能になっても、受け皿となる治療施設の不足や治療体制の整備が不十分であれば、患者や家族にとって不安要素が増えることが示されました。保護者は、「十分な治療体制のもとでのスクリーニングは重要であり、同様の経験を他の家族にはしてほしくない」と語り、拡大マススクリーニングの意義とともに、その体制整備の必要性を広く周知したいとの思いを表明されました。
保護者のコメント
拡大マススクリーニングの結果を聞いたのは、1カ月検診時でした。その後、再検査と精密検査を経て診断を受けるまでに3か月を要しました。酵素補充療法を行いながら造血細胞移植の準備を進め、生後6カ月時に移植のため入院しましたが、直前で心機能が悪化し移植は中止となりました。
医師からは「先月の心臓の状態なら移植できたかもしれない」と告げられ、もっと早く準備が整っていればと悔しい思いをしました。それ以降、問い合わせしたすべての医療機関で移植を断られましたが、東海大学医学部付属病院だけが移植を検討してくれました。移植までに時間を要しましたが、子どもが1歳3カ月の時にようやく移植が実現しました。
日々、病気が進行しているにも関わらず、精密検査等に時間を費やし、治療開始までに数カ月を要し、移植の中止や断りを受けるなど、私たちは本当に辛い思いをしました。
マススクリーニングを受ける方が私たちと同じ思いをしないよう、医師同士が早期に連絡を取り合えるシステムや治療できる体制を整えて欲しいと願っています。
主治医のコメント~東海大学医学部付属病院小児科の役割と今後の展望~
本移植の成功は、当病院小児科が長年培ってきた高度な医療技術と豊富な経験によるものであり、社会的に意義深いものであると考えられます。今後も拡大マススクリーニングの発展に向け、受け皿となる治療体制の整備に尽力し、患者と家族が安心できる医療の提供を目指してまいります。
<本件に関するお問い合わせ> 東海大学医学部付属病院小児科 TEL. 0463-93-1121(代表) |