白血病CAR-Tに新戦略 microRNAで治療効果と持続性を同時強化 ~急性骨髄性白血病に対する次世代免疫細胞治療法の可能性を示唆~

2026年02月19日

 東海大学[伊勢原キャンパス]医学部医学科内科学系血液・腫瘍内科学領域の原田介斗助教らの研究グループは、急性骨髄性白血病(AML*1に対する新たな免疫細胞治療戦略を開発いたしました。

 本研究では、AML細胞および白血病幹細胞に選択的に発現する分子IL1RAP(インターロイキン1受容体付属タンパク質)*2を標的とするCAR-T細胞療法*3に着目しました。その過程で、白血病により低下するmicroRNA-142*4を補充することで、CAR-T細胞の機能低下(疲弊)を回復させ、抗白血病効果と治療持続性を同時に高められることを明らかにしました。

 

ポイント

急性骨髄性白血病細胞および白血病幹細胞に特異的に発現するIL1RAPを標的としたCAR-T細胞を開発した。

AML細胞がT細胞内のmicroRNA-142を低下させ、CAR-T細胞の疲弊と治療効果低下を引き起こすことを明らかにした。

合成microRNA-142CAR-T細胞に補充することで、エネルギー代謝と抗白血病活性が回復することを確認した。

患者由来白血病モデルマウスにおいて、microRNA-142補充CAR-T細胞が生存期間を有意に延長した。

CAR-T細胞の標的選択と機能強化を同時に実現する、AMLに対する新たな免疫細胞治療戦略を提示した。

 

  本研究成果は、20251112日付で国際学術誌「Journal of Hematology & Oncology」 に掲載されました。

 

■研究の背景

 AMLは、未熟な骨髄系細胞が異常に増殖する血液がんであり、再発率が高く、依然として予後不良例の多い疾患です。近年、CAR-T細胞療法が一部の血液がんにおいて顕著な治療効果を示していますが、AMLでは、がん細胞と正常造血幹細胞の抗原の共通性や、腫瘍微小環境による免疫抑制の影響などにより、安全かつ有効な治療法の確立が課題となっています。

 本研究グループはこれまで、AML細胞および白血病幹細胞に高発現し、正常造血幹細胞では発現が乏しい表面分子IL1RAPに着目し、AMLに対する特異性の高いCAR-T細胞の開発を進めてきました。

 

■研究成果

原田1.jpg 本研究では、IL1RAPを標的とするCAR-T細胞を作製し、その有効性と安全性を検証しました。その結果、培養系実験および患者由来のAML細胞を移植したPDXマウスモデル*5において、白血病細胞の増殖抑制と生存期間の延長が確認されました。正常造血幹細胞への影響は限定的であり、IL1RAPAMLに対する有望な治療標的であることが示されました。

 一方で、詳細な解析の結果、AML細胞との相互作用により、T細胞内のmicroRNA-142が低下し、エネルギー代謝障害や機能的疲弊が生じることが明らかになりました。CAR-T細胞の疲弊は、治療効果の減弱や持続性低下の主要因とされています。

 

 

原田②.jpg そこで研究グループは、合成microRNA-142CAR-T細胞に補充する手法を検討しました。その結果、エネルギー代謝機能と抗白血病活性が回復し、患者由来AMLモデルマウスにおいては、IL1RAP CAR-T単独治療と比較して、よりも高い抗腫瘍効果と有意な生存期間延長が認められました(図1)。これらの結果は、microRNA-142の補充が、CAR-T細胞の治療効果と持続性を同時に高め得る分子基盤戦略であることを示しています(図2)。

 

■社会的インパクト

 本研究は、AMLに特異的に発現するIL1RAPを標的とすることで安全性の向上を図るとともに、microRNAを用いてCAR-T細胞の機能低下を制御するという新たな概念を提示するものです。CAR-T細胞の疲弊は、がん免疫療法全体に共通する課題であり、本研究で示されたmicroRNA-142を介した機能回復戦略は、AMLに限らず、他の血液がんや固形がんへの応用可能性も示唆します。今後の臨床研究の進展により、難治性白血病に対する治療選択肢の拡充につながることが期待されます。

 

■今後の展開

今後は、microRNA-142補充CAR-T細胞の安全性および有効性に関するさらなる前臨床評価を進めるとともに、臨床応用を見据えた製造工程の最適化を図ります。また、本分子制御戦略を他のCAR-T細胞や免疫細胞療法へ応用する可能性についても検討を進める予定です。

 

■論文情報

◇掲載誌 Journal of Hematology & Oncology
◇論文タイトル MicroRNA-142 improves IL1RAP CAR-T cell activity in acute myeloid leukemiamicroRNA-142IL1RAP標的CAR-T細胞の抗白血病効果を高める)
◇著者

原田 介斗1,2、ダンダン ジャオ2、ミソ パーク3

1.東海大学医学部医学科内科学系血液・腫瘍内科学領域

2.シティオブホープ ヘマトロジカルマリグナンシートランスレーショナルサイエンス

3.シティオブホープ キャンサーバイオロジー&モレキュラーメディシン

◇DOI https://doi.org/10.1186/s13045-025-01755-6

 

【用語説明】

*1急性骨髄性白血病(AML):

骨髄でつくられる白血球の前駆細胞ががん化し、異常な未熟細胞(芽球)が増殖する血液がん。進行が速く、再発例も多い。

 

*2 IL1RAP(インターロイキン1受容体付属タンパク質):

細胞表面に存在するタンパク質で、炎症関連シグナル伝達に関与する。AML細胞や白血病幹細胞で高発現することが報告されている。

 

*3 CAR-T細胞療法:

患者自身のT細胞に遺伝子改変を加え、がん細胞特異的抗原を認識する受容体(CAR)を導入し、体内に戻すことでがん細胞を攻撃させる治療法。

 

*4 microRNA-142:

遺伝子発現を調節する短鎖RNAの一種。免疫細胞の分化や機能維持に関与することが知られている。

 

*5 PDXマウスモデル:

患者由来のがん細胞を免疫不全マウスに移植して作製する実験モデル。ヒトがんの性質を比較的忠実に再現できるとされる。

 

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学医学部付属病院 事務部事務課(広報)

 TEL:0463-90-2001(直通)E-mail:prtokai@tokai.ac.jp

 

 

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