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超音波AI技術により美味しいビントロの選別に成功 ~複数波形を用いた新アルゴリズムと自動検査試作機により実用化に向け進展~
2023年12月18日
東海大学[静岡キャンパス]海洋学部水産学科の後藤 慶一教授の研究グループは、富士通株式会社(以下、富士通)との共同研究において、ビンチョウマグロの美味しさに最も影響する脂分を冷凍状態のまま非破壊で評価することに世界で初めて成功しました。
冷凍マグロの品質評価においては、商品価値の高いマグロを見分ける技術の開発に高いニーズがあります。同研究グループは2022年度、超音波AI技術*1を用いて、非破壊でマグロの鮮度を判別することに成功しました。しかし、美味しさに直接影響を与える脂分の判別は、引き続き課題となっていました。今回の研究では複数の超音波波形を活用した新しい機械学習*2アルゴリズムを開発し、尾切り選別と同程度以上の確度で脂分の多いビンチョウマグロを判別することに成功しました。
なお、本研究成果は2023年12月22日(金)、23日(土)に福岡県福岡市で開催される超音波研究会(一般社団法人 電子情報通信学会主催)で発表する予定です。
■背景
ビンチョウマグロの「ビントロ」と呼ばれる脂がのった部分は白っぽいピンク色であるため、尾切り選別で見分けるには熟練者の技術を要します。また、ビンチョウマグロは一年を通じて漁獲量が多く、比較的安価で提供できることから、近年は回転寿し店の定番メニューにも入るなど、市場ニーズが拡大しています。そうした中、水産商社を中心に、魚体の一部の欠損が避けられない尾切り選別に代わる、効率的・機械的な選別作業方法の開発に期待が高まっています。
■研究概要
(1)新アルゴリズムの開発
本研究ではまず、FDTD法*3を用いた超音波シミュレーションにより様々な条件で波形データを生成して、アルゴリズムの性能向上に寄与する因子を検討しました。その結果、機械学習に用いる超音波波形の数が多いほど確度が向上することが判明しました。さらに、機械学習の性能に寄与する波形とそうでない波形があることも分かりました。
この知見から、波形ごとに重み付けすることで機械学習の判別性能が向上すると考え、複数の超音波波形を入力データとし、波形ごとの特徴を抽出する「超音波波形分析AI」、その出力に重み付けする「特徴評価AI」、そして最終的な判定(例:脂分が多いマグロか否かの最終的な判定)を行う「判定AI」からなる新手法のアルゴリズムを開発しました。
(2)脂分判別技術の開発
新アルゴリズムを用いて冷凍ビンチョウマグロの脂のり具合判定を試行するため、尾切り選別による脂の分類ラベル付きビンチョウマグロの冷凍丸魚57本を2社から入手しました。まず、全ての検体の尾側の魚肉について脂分の化学分析を行い、脂が多いと捉えられる傾向にある脂分9g/100g以上であった場合に丸魚全体を「脂極み」検体として尾切り選別の正解率を算出しました。さらに、冷凍検体の表面24か所から合計2,736波形を取得して、新アルゴリズムと通常のニューラルネットワーク(以下、NNW)の性能を三分割交差検証*4を用いて評価しました。
その結果、化学分析の正解率を100%としたとき、尾切り選別による脂極み分類の正解率は78.9%でした。通常のNNWによる正解率は1波形を用いた場合は70.5%、8波形を用いた場合は75.1%でした。一方、8波形を用いた新アルゴリズムによる正解率は80.0%であり、尾切り選別と同程度以上の分類性能を非破壊で達成することに成功しました。
さらに、被験者が美味しさを評価する「官能評価」により、脂分の含有量と美味しさの関係性を検証するため、7名の被験者が脂分含有量の異なる6検体のビンチョウマグロ刺身を実食し、脂ののり具合と美味しさを評価しました。6検体中、化学分析による判定で脂極みは1検体でしたが、官能評価により脂極みの検体を高い確率で見分けることができました。また、脂極みの検体を官能評価でもより美味しいと評価する結果になりました。これはビンチョウマグロの美味しさに脂ののりが影響するという仮説を支持するデータの一つと言え、脂極みを80.0%の正解率で判別できる新アルゴリズムは美味しいビンチョウマグロの判別に活用できると考えられます。
(3)自動検査試作機の製作
今後の実証実験を見据えて、複数の超音波波形を同時に取得できる自動検査試作機を製作しました。冷凍ビンチョウマグロの尾近辺から8個の超音波波形を同時取得できるようにプローブを配置しています。機械的にプローブを押し当てることで一定の位置・圧力で超音波波形を取得することが可能であり、新アルゴリズムの正解率向上につながると期待できます。また、超音波波形を手作業ではなく自動的に取得できるため、より現場での活用を効率化すると考えられます。
■想定される利用シーンと今後の予定
水産商社や漁港などにおいて、ベルトコンベア式に冷凍マグロの品質検査をする際、本技術を適用することにより鮮度や美味しさ(脂分)の自動一括検査が可能となります。今後、試作機を用いて現場実証を目指していきます。
※商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
〔用語解説〕
※1 超音波AI技術
超音波検査で取得されたデータ処理に特化したAI技術群。超音波検査によって得られたデータには骨などによる反射とそれによる影といった特徴があります。富士通は、このような超音波データが持つ特徴を軽減したり活用したりすることにより、超音波特有のノイズなどの問題に対してロバストなAI技術の開発を進めている。
※2 機械学習
AI技術の一つ。訓練データからアルゴリズムが自動的に対象の分類などに必要な特徴を学習する技術。開発者が作りこむことが困難な複雑・微細なパターンに対しても高い性能を発揮する技術。
※3 FDTD法
FDTD法(Finite-difference time-domain method)は、有限差分時間領域法とも呼ばれ、電磁波や超音波の伝搬を時系列にそって計算する標準的なシミュレーション手法。
※4 三分割交差検証
データセットを三つに分割し、二つを学習に一つを評価に用いることを三通りのパターンで行う検証方法。本研究では三分割交差検証によって得られた平均正解率を機械学習アルゴリズムのデータセット全体に対する正解率とみなして尾切り選別との比較を行った。
【関連リンク】
・「世界初!超音波AI技術により非破壊で冷凍マグロの鮮度の評価に成功」(2022年12月21日プレスリリース)
https://www.tokai.ac.jp/news/detail/ai.html
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/12/21.html
<研究に関するお問い合わせ> 東海大学 海洋学部水産学科 後藤慶一 TEL. 054-334-0411代表)E-mail kgoto@tsc.u-tokai.ac.jp
<本件に関するお問い合わせ> 東海大学スルガベイカレッジ静岡オフィス(企画・広報担当) 金子・柴田・小池 TEL.054-337-0144 |