体臭が周囲の人にアレルギー症状を誘発!? ~PATM(私に対するアレルギー)患者の皮膚ガス組成を解明 世界初の論文発表~

2023年07月14日

東海大学[湘南キャンパス]理学部化学科の関根嘉香教授(東海大学先進生命科学研究所員を兼務)とAIREX株式会社の笈川大介氏らの研究グループは、自身の体臭が周囲の人たちに咳やくしゃみなどのアレルギーに似た症状を引き起こすと訴える「People Allergic To Me(私に対するアレルギー)」(以下、PATM)の患者20人の皮膚ガスを測定・分析した結果、体表面から人工化学物質や硫黄化合物、不安効果を与える成分などが多く放散されていることを突き止め、その皮膚ガス組成には共通の特徴があることを明らかにしました。また、このような皮膚ガス組成には、化学物質に対する代謝能や酸化ストレスが関与している可能性も示唆しました。

研究のポイント

PATMの実態は不明で、科学的・医学的に全く解明されていない。

PATMを訴える20人の皮膚ガスを、パッシブ・フラックス・サンプラー1とガスクロマトグラフィー/質量分析2を組み合わせて使用し75種類の皮膚ガスの皮膚放出量を測定・分析。

●非PATM群に比べ、PATM群からはトルエンやキシレンなどの人工化学物質、メチルメルカプタンなどの含硫黄化合物、不安効果を与えるヘキサナールのような成分が多く放散されていることが判明。PATM群の皮膚ガス組成には共通の特徴があることを明らかにした。

●今回の成果はPATMが未解明の疾病である可能性を提示したもの。論文はPATMのにおい物質に関する世界初の原著論文となり、PATMの解明に向けた第1歩である。


この研究成果は、2023610日(土)公開の国際学術誌『Scientific Reports』(オンライン)に掲載され、PATMのにおい物質に関する世界初の原著論文となりました。

 

■研究の背景

人間の体臭は、皮膚表面から発せられるいくつかの揮発性化合物で構成されており、これらは人間の皮膚ガスとして知られています。皮膚ガスは通常、周囲の人々にとって快適か不快かの問題として認識されます。体臭が人間の健康に悪影響を与える可能性については、これまでほとんど研究されてきませんでした。しかし最近では、自分の皮膚ガスが周囲の人々に、くしゃみ、鼻水、咳、目のかゆみ・充血などのアレルギーのような反応を引き起こすとSNSなどを通じて訴える人が増え、その症状は「PATM」と呼ばれています。PATM 患者の多くは心理的面でも不安を抱えることがあり、その症状が原因で仕事を辞めざるを得なくなる人もいます。しかしながら、PATMに焦点を当てた科学的な研究報告が不足しており、その実態はわかっていません。

■研究概要と今後の展望

皮膚ガス①.png

【図1】この研究で使用された75種類の皮膚ガスを測定するための

パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)の外観図

研究グループは、PATM であると主張する人々を対象にパッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)とガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を使用して、皮膚ガス75 種類の放散量を測定することによって皮膚ガス組成の特徴を調査しました。PATM グループと非 PATM グループの間では、いくつかのガスの皮膚放散量に大きな違いがありました。具体的には、PATM グループではトルエンやキシレンなどの人工化学物質、メチルメルカプタンなどの含硫黄化合物、不安効果を与えるヘキサナールのような成分の放散が多く、芳香を有する成分の放散は比較的少ないことがわかりました。

現時点でPATMグループの特徴的な皮膚ガス組成を説明するメカニズムの提示は困難です。しかし、トルエンとその代謝物であるベンズアルデヒドの比率は、肝臓の薬物代謝酵素であるシトクロム P450 (CYP)の活性と関連する可能性があり、PATMを示唆するバイタルサインと考えられます。またヘキサナールは皮脂の酸化生成物と考えられ、その放散には酸化ストレスが関与している可能性があります。その放散量は、PATMを主張する人々の体臭に寄与するレベルでした。これらの発見は、PATM がさらなる研究の価値があり、まだ医学的に解明されていない現象または症状として学際的なアプローチが必要であることを示唆しています。

皮膚ガス➁.png

【図2】PATMグループとPATMグループのa)トルエン、b)その考えられる代謝産物ベンズアルデヒドの皮膚放散フラックス、およびc)トルエンとベンズアルデヒドの比の比較。箱ひげ図中の×印は平均値

■関根嘉香(東海大学理学部化学科)コメント

皮膚ガス③.jpg

PATMと呼ばれる現象・症状は、これまで研究対象にはなっていませんでした。しかし、PATMで苦しんでいる方は現実に多くいます。今回、体臭の原因となる皮膚ガスを個別に化学分析することにより、PATMを訴える人の皮膚ガス組成には共通の特徴があることがわかりました。この研究成果が、PATMに関する科学的・医学的な原因究明のきっかけになれば幸いです。

 

■掲載論文

掲載誌

Scientific Reports

論文名

Human skin gas profile of individuals with the people allergic to me phenomenon(People allergic to meを有する人たちの皮膚ガスプロフィール)

掲載日

2023年6月10日(土)

著者

関根嘉香(東海大学理学部化学科)、笈川大介(AIREX株式会社)、戸髙惣史(AIREX株式会社)

DOI

doi.org/10.1038/s41598-023-36615-1

URL

https://www.nature.com/articles/s41598-023-36615-1

 

■用語解説

1 パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS):いつでも・どこでも・誰でも簡単に皮膚ガス捕集を実現した小型器具。本体部、円盤状の捕集材、留め具からなり、皮膚表面に30分~1時間設置するだけで微量な皮膚ガスを集めることが出来る。電力不要、多点同時捕集が可能。

 

2 ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS):主に揮発性成分を分析対象とする分離・分析装置。試料を気化した後、沸点や極性の差異を利用して個々の成分を分離し、それらをイオン化して質量分析し、化学成分の定性・定量を行うことが出来る。

<研究に関するお問い合わせ>

東海大学理学部化学科 関根嘉香

TEL. 0463-58-1211(代表)Emailsekine@keyaki.cc.u-tokai.ac.jp

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学学長室 広報担当:喜友名、林

 TEL.0463-63-4670(直通) E-mailpr@tsc.u-tokai.ac.jp



 

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