【研究発表】 炎症が長引く新たな仕組みを解明 PAI-1阻害による炎症性疾患・組織再生治療への応用に期待 ~免疫細胞マクロファージが作るPAI-1が「死んだ細胞の片づけ」を妨げる~

2026年06月10日

 東海大学[伊勢原キャンパス]医学部医学科基礎医学系生体防御学領域の八幡崇教授を中心とする研究グループは、東北大学大学院医学系研究科の宮田敏男教授らとの共同研究により、炎症が長引く新たな仕組みを明らかにしました。本研究成果は2026327日に国際学術誌「Cell Death Discovery」のオンライン版に掲載されました。

 本研究では、組織損傷によって炎症が起きた部位に集まる免疫細胞「炎症性マクロファージ」*1が、PAI-1*2plasminogen activator inhibitor-1)というタンパク質を多く産生し、死んだ細胞を取り除く働きである「エフェロサイトーシス」*3を妨げることを発見しました。死んだ細胞を適切に取り除かないと、炎症が収束せず、組織修復が遅れることにつながります。

 さらに、PAI-1の働きを阻害する薬剤「TM5614*4を投与すると、マクロファージ*5による死細胞の除去機能が回復し、炎症の収束と筋組織の再生が促進されることをマウス実験で確認しました。

 本成果は、これまで血液凝固や線維化に関わる因子として知られてきたPAI-1が、炎症部位において免疫細胞の働きを直接制御し、炎症の長期化に関与することを示すものです。PAI-1を標的とすることで、慢性炎症や組織修復障害に対する新たな治療法の開発につながる可能性があります。

 

ポイント

症部位のマクロファージがPAI-1を大量に産生

マウスの骨格筋損傷モデルを用いた解析により、炎症部位に集まったCCR2陽性Ly6C陽性の炎症性マクロファージが、PAI-1を多く産生することを明らかにしました。

PAI-1が死細胞除去の「eat me」シグナルを阻害

死んだ細胞は、マクロファージに「食べてください」と知らせるCRT*6(カルレティキュリン)という目印を出します。本研究では、PAI-1がマクロファージ表面のLRP-1*7に先に結合し、CRTの認識を競合的に妨げることを発見しました。

死んだ細胞が残り、炎症が長引く仕組みを解明

PAI-1によってエフェロサイトーシスが抑制されると、炎症部位に死んだ細胞が残り、炎症の長期化と組織修復の遅れにつながることが示されました。

PAI-1阻害薬TM5614により炎症収束と組織再生が促進

PAI-1阻害薬TM5614*6を投与すると、マクロファージの死細胞除去機能が改善し、炎症が抑えられ、損傷した筋組織の再生が促進されました。

新たな炎症治療標的としてPAI-1の可能性を提示

本成果は、PAI-1が炎症性疾患に対する新たな治療標的となり得ることを示すものです。

 

 

■研究の背景

 炎症は、細菌やウイルスなどの外敵、あるいは傷ついた細胞や死んだ細胞を取り除くために体が起こす重要な防御反応です。しかし、炎症が必要以上に長く続くと、組織の修復が妨げられ、がん、動脈硬化、神経変性疾患、自己免疫疾患など、さまざまな疾患の発症や悪化に関わることが知られています。

 炎症を適切に収束させるためには、炎症の過程で生じた死細胞や不要になった細胞を速やかに取り除く必要があります。この役割を担うのが、免疫細胞の一種であるマクロファージです。マクロファージは、死んだ細胞を取り込んで処理する「掃除役」として働きます。この死細胞除去の仕組みは「エフェロサイトーシス」と呼ばれ、炎症を終わらせ、組織修復を進めるうえで欠かせない生体反応です。

 一方、PAI-1は、血液凝固や線維化に関わるタンパク質として知られており、炎症時に増加することが報告されています。また、PAI-1の上昇はさまざまな疾患の予後不良とも関連しています。しかし、PAI-1がどのような仕組みで炎症を悪化させるのかは、十分に分かっていませんでした。

 そこで研究グループは、PAI-1がマクロファージによる死細胞除去を妨げ、炎症の長期化を引き起こしているのではないかと考え、マウスの骨格筋損傷モデルを用いて検証しました。

 

■研究成果

 研究グループは、マウスの骨格筋に一時的な損傷を起こし、炎症部位でPAI-1がどのように働くかを調べました。その結果、損傷を受けた筋組織ではPAI-1の発現が大きく増加していることが確認されました。特に、炎症部位に集まるCCR2陽性Ly6C陽性の炎症性マクロファージが、PAI-1を多く産生していることが分かりました。

 次に、PAI-1を持たないマウスを用いて調べたところ、通常のマウスと比べて炎症が弱まり、損傷した筋肉の再生が速く進むことが確認されました。炎症を引き起こすサイトカインの発現は低下し、炎症を抑える働きを持つIL-10の発現は増加していました。これにより、PAI-1が炎症を長引かせ、組織再生を妨げる因子であることが示されました。

 さらに、炎症性マクロファージだけでPAI-1を作れないようにしたマウスでも、炎症の抑制と筋組織の再生促進が認められました。この結果から、炎症を長引かせる主な要因は血液中のPAI-1ではなく、炎症部位のマクロファージが局所的に作り出すPAI-1であることが分かりました。

 

 本研究の中心的な発見は、PAI-1がマクロファージの「死んだ細胞を片づける力」を直接妨げる仕組みを明らかにした点です。通常、死んだ細胞は表面にCRTという「eat me(食べて)」シグナルを出します。マクロファージは、自身の表面にあるLRP-1という受け皿を通じてCRTを認識し、死んだ細胞を取り込んで処理します。

 しかし、PAI-1CRTよりも強くLRP-1に結合し、CRTの認識を競合的に妨げることが分かりました。つまり、死んだ細胞が「食べてください」というサインを出していても、PAI-1が先に受け皿をふさいでしまうため、マクロファージは死んだ細胞をうまく片づけられなくなります。その結果、死細胞が炎症部位に残り、炎症が長引き、組織修復が遅れると考えられます。

 加えて、PAI-1阻害薬TM5614を投与したマウスでは、マクロファージの死細胞除去機能が改善し、炎症の収束と筋組織の再生が促進されました。このことから、PAI-1を標的とする治療が、炎症性疾患や組織修復障害に対して有効となる可能性が示されました。

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■今後の展開

 本研究は、PAI-1が炎症を悪化させる新たな仕組みとして、マクロファージのエフェロサイトーシス阻害を明らかにしたものです。PAI-1はこれまで、血液凝固や線維化に関わる因子として知られてきましたが、本研究により、炎症の現場で免疫細胞の働きを制御し、炎症の長期化に関与する重要な因子であることが示されました。

 今回の研究は骨格筋損傷モデルを用いた基礎研究ですが、マクロファージは多くの炎症性疾患に深く関与しています。そのため、マクロファージ由来PAI-1によるエフェロサイトーシス阻害は、関節炎、大腸炎、動脈硬化、がんなど、慢性炎症を伴うさまざまな疾患にも共通する仕組みである可能性があります。

 また、PAI-1阻害薬TM5614は経口投与が可能であり、従来のステロイド薬やサイトカイン阻害薬とは異なる作用機序を持つ新たな抗炎症治療薬候補として期待されます。今後は、ヒトの炎症性疾患における有効性や安全性の検証を進め、慢性炎症や組織修復障害に対する新たな治療法の開発につなげることが期待されます。

 

■論文情報

◇掲載誌:Cell Death Discovery

◇論文タイトル:Inflammatory macrophage-derived plasminogen activator inhibitor-1 exacerbates inflammation through efferocytosis inhibition(炎症性マクロファージ由来PAI-1は、死細胞除去(エフェロサイトーシス)を阻害することで炎症を増悪させる)

◇著者:アブドゥル アジズ ビン イブラヒム1、三浦浩美2、寺田智哉1,5、川原田雅基1、渡邊伸央3、細川裕之4,5、大塚正人2,5、宮田敏男6、八幡崇1,5

 

1. 東海大学医学部医学科基礎医学系生体防御学領域
2. 東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学領域
3. 東海大学医学部医学科総合診療学系救命救急医学領域
4. 東海大学医学部基礎医学系生体防御学領域
5. 東海大学総合医学研究所
6. 東北大学大学院医学系研究科分子病態治療学分野

DOI10.1038/s41420-026-03076-0

URLhttps://doi.org/10.1038/s41420-026-03076-0

 

 

【用語説明】

*1 炎症性マクロファージ

 マクロファージの中でも、炎症時に活性化され、炎症性サイトカインや活性酸素などを産生する細胞。病原体の排除や組織防御に重要な役割を果たしますが、過剰な活性化は組織障害や慢性炎症の原因となる。

*2 PAI-1plasminogen activator inhibitor-1

 血栓を溶かす線溶系を阻害する因子として知られるタンパク質。近年の研究から、血栓形成だけでなく、線維化の促進、細胞老化、さらには免疫細胞の制御など、多彩な病態プロセスに関与する多機能因子であることが明らかになっており、抗老化やがん、慢性炎症などの領域で標的分子として注目されている。

*3 エフェロサイトーシス

 マクロファージなどの貪食細胞が、アポトーシス(細胞死)した細胞を認識・除去する仕組み。不要な死細胞を速やかに除去することで、炎症の収束や組織修復を促進する。

*4 TM5614

 東北大学を中心とした研究グループによって開発された、経口投与が可能な特異的PAI-1阻害薬。PAI-1の働きを分子レベルで直接ブロックすることで、線溶系の活性化や、組織の抗炎症・修復の促進などの効果が期待されており、現在、がんや老化関連疾患など幅広い病態を対象に臨床開発が進められている。

*5 マクロファージ

 体内に広く存在する免疫細胞で、異物や細菌、死細胞などを取り込んで除去する役割を担う。炎症制御や組織修復にも重要であり、生体防御に不可欠な細胞。

*6 CRT(カルレティキュリン)

 主に小胞体に存在するタンパク質で、細胞死の際に細胞表面に移行する。細胞表面に現れたCRTは「eat meシグナル」として働き、マクロファージによる死細胞の認識・除去を促進する。

*7 LRP-1

 細胞表面に存在する受容体タンパク質で、多様な分子の取り込みやシグナル伝達に関与する。死細胞表面のCRTを認識してエフェロサイトーシスを仲介する一方、PAI-1の受容体としても機能する。PAI-1CRTより高い親和性でLRP-1に結合するため、死細胞認識を競合的に阻害し、炎症遷延や組織修復遅延に関与する。

 

 

<研究に関するお問い合わせ>

東海大学医学部医学科基礎医学系生体防御学領域 八幡崇

TEL. 0463-93-1121(代表)

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学医学部付属病院事務部事務課(広報)

TEL. 0463-90-2001(直通) Email:prtokai@tokai.ac.jp

 

 

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