前立腺がん治療と排尿・性機能温存を両立 先進医療Bに認定 「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」  ~患者のQOL(生活の質)を維持 体に負担の少ないがん治療の新たな選択肢に~

2023年02月01日

東海大学医学部付属病院では、医学部医学科外科学系准教授の小路直(腎泌尿器科)を実施責任医師とする「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」が厚生労働省の「先進医療B」に認定され、1月31日(火)に同省の官報にて公布、2月1日(水)から適用されました。



本治療法は、患者さんの予後に影響すると考えられる前立腺のがん病巣を取り除く一方、正常な組織を可能な限り残し排尿や性機能などの温存を図るものです。いわば治療と機能温存の両立を目指す治療法であり、患者さんの手術後のQOL(生活の質)を維持する手法として注目されています。



先進医療とは、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」とされています。先進医療に要する費用は、患者さんが全額自己負担することになり、それ以外の通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。先進医療は「A」と「B」に分けられ、「A」は未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わないもので、「B」は適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術です。

(参考資料) 厚生労働省 先進医療合同会議資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001021677.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001021678.pdf



■「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」とは

前立腺がんの患者数は年々増加しており、国立がん研究センターがん対策情報センターのがん統計によると、2019年の男性の部位別の罹患数(全国推計値)では、大腸、胃、肺を抜いて前立腺がんが1番目となっています。罹患数増加の背景には、食事の欧米化・高カロリー化や急速な高齢化に加え、前立腺がんの血液腫瘍マーカーの一つであるPSA検診の普及による発見率の向上も要因の一つとして挙げられます。

従来の前立腺がん治療では、外科的手術や放射線治療により前立腺全体が治療される結果、排尿機能や性機能が損なわれることがあり、手術後のQOL低下が懸念されていました。

当病院では、前立腺内部のがんの場所を高精度に診断するため、PSA検査後にPSA値「4」以上の患者さんに対して、2013年11月より「MRI‐TRUS融合画像ガイド前立腺下生検」を実施しています。この診断法は2016年2月に「先進医療A」に認定され、昨年4月から保険収載されました。こうした診断技術の向上により、高密度焦点式超音波を使った新しい低侵襲治療「がん局所療法(フォーカル・セラピー)」が適用できるようになりました。本治療法は、排尿に関係する尿道括約筋や、勃起に関係する勃起神経に対してダメージを与えにくいため、尿失禁や勃起機能への影響が少ない治療法と考えられています。



■臨床研究について

①臨床研究の目的

前立腺がんの現在の標準治療であるロボット支援下根治的前立腺摘除術と、「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」が同程度の効果があるかを評価します。

②対象の患者さん

20歳以上で血清PSA値が20ng/mL以下の臨床的に意義のあるがん*の局在診断が行われた限局性(転移の認められない)前立腺がんの患者さんが主な研究対象となります。また、様々な手術適応可能・不可条件があり、それらをクリアした方が対象となります。

* 「臨床的に意義のあるがん」の定義は、生検コアにおいてGleason score 3+3=6の前立腺がんが4mm以上、あるいはGleason score 3+4以上の前立腺がんが検出された場合、あるいは前立腺がんが検出された標的生検の標的となった領域の直径が10mm以上であった場合と定義します。

③治療の方法と時間

超音波エネルギーを照射するプローブを直腸に挿入し、前立腺と標的となるがん病巣を超音波画像で観察しながら、治療領域を設定し、コンピューター制御下において超音波照射を行います。治療時間は、当病院で実施した手術90例の中央値によると約40分となっています。

④入院期間

入院期間は2泊3日です(治療翌日に退院)。治療直後に尿道カテーテルを留置し排尿を管理します。翌日に尿道カテーテルを抜去して、退院となります。

⑤臨床研究期間のスケジュール

定期的に担当医師による問診とMRI検査、前立腺生検など各種検査を行います。



■臨床研究参加人数と期間

参加人数:310名

期  間:前立腺癌標的局所療法で手術を受けてから定期的に約5年間、経過観察します。



■治療にかかる費用

【健康保険の適用】通常の治療と共通する部分となる診察、検査、投薬、入院料等

【健康保険外診療】前立腺癌標的局所療法:先進医療に係る費用約67万円(税別)





【本件に関するお問い合わせ】

東海大学医学部付属病院 腎泌尿器科 小路直

TEL.0463-93-1121(代表)E-mail:ss083538@tsc.u-tokai.ac.jp

一覧へ戻る