東海大学医学部 猪口貞樹らのグループ がんの転移を抑える創薬のための画期的な評価システムの開発に成功~従来よりも約5~10分の1の速度で化合物の探索が可能に。「がん撲滅」への道に光明~

2019年09月27日

東海大学医学部医学科外科学系救命救急医学 前教授(現、客員教授)の猪口貞樹、助教の渡邊伸央ならびに先進生命科学研究所を中心とした研究グループでは、がん転移阻害薬の開発を加速させる画期的な評価システムの構築に成功しました。なお、その手法をまとめた論文が9月25日(水)14:00〔アメリカ東部時間〕、米国の科学雑誌『PLOS ONE』(DOI:10.1371/journal.pone.0222331、URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0222331)に掲載されました。

■研究の背景について
日本人の死因の第1位は「がん」です。がんの死亡率の高さは、再発や転移によるところが大きいと言えます。多くのがん組織において、ポドプラニンと呼ばれる膜タンパク質の発現が上昇しており、この値が高くなるほど、切除手術後の再発・転移のリスクも高まることがすでに報告されています。がんの再発・転移は、ポドプラニンと血小板が結合し、血小板の活性化が誘導されることに起因していると考えられており、ポドプラニンと血小板の結合を阻害できる化合物が見つかれば、がんの転移防止薬となり得ます。しかし、現在のところ、このような作用機序を持つ化合物は明らかになっていません。

■研究内容について
ポドプラニンは、血小板膜のCLEC-2と呼ばれるタンパク質と結合し、血小板の活性化を引き起こします。そこで、本研究グループは遺伝子組み換え法により、目印となるタンパク質を融合させたCLEC-2とポドプラニンを溶液中で結合反応させた後、この目印を利用してCLEC-2とポドプラニンの複合体を沈降させる「プルダウン・アッセイ」という評価システムを構築しました。結合反応時に共存させた化合物がCLEC-2とポドプラニンとの結合を阻害すれば、ポドプラニンの沈降が抑制されることになります。従来のプルダウン・アッセイでは、1サンプルごとに洗浄等の操作をするため、薬の候補化合物評価(スクリーニング)には不向きでした。しかし今回構築したこの評価システムでは、一度に48サンプルを評価することが可能であり、従来の方法に比べて約5~10分の1の速さで、正確に候補化合物を探索することができます。現状、世界中から報告されている評価システムの中で最も迅速かつ測定精度の高い評価システムであると言えます。

■今回の研究で期待されること
今回開発した評価システムにより、従来は開発が難しかったがん転移抑制薬の研究開発が一挙に加速され、人類の悲願である「がん撲滅」への道がさらに大きく開けると期待されます。

■用語解説
(i)ポドプラニン
ポドプラニンは膜タンパク質であり、通常はリンパ管の内皮細胞など、限られた組織でのみ発現している。しかし多くのガン細胞においては、機序は不明であるが、ポドプラニンの発現が上昇している。ガンの悪性度の指標にもなっている。ポドプラニンには血小板活性化部位があり、血小板の膜上のCLEC-2と結合して血小板を活性化させる。

(ⅱ)CLEC-2
CLEC‐2(C-type lectin-like receptor 2)は血小板膜上に選択的に発現している膜タンパク質である。血小板がCLEC-2を介してポドプラニンと結合すると血小板の活性化が起る。この結果、血小板の内部に蓄えられている種々の生理活性分子が放出される。これらの分子がガン細胞に作用すると、ガン細胞に上皮間葉転換と呼ばれる変化が起こる。この結果、ガン細胞が可塑的な形態となり、また運動能力が上昇し、組織や血管壁の合間をぬって転移や浸潤ができるようになる。

■本件に関するお問い合わせ
東海大学医学部医学科外科学系救命救急医学 担当:渡邊伸央
TEL.0463-93-1211(代表)
E-mail:wn600365@tsc.u-tokai.ac.jp

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