深海魚ソコダラ類の日本近海における種多様性を解明~4新種を含む多くの分類学的成果~

2020年11月10日

新種の一つ「ヤジリヒゲ」の標本(全長255 mm)
東海大学海洋学部海洋生物学科の中山 直英〔なかやま なおひで〕助教は、これまでタラ類の中で最も種多様性が高く分類が難解とされていたソコダラ類について、日本近海の北西太平洋に生息するものを4新種を含む18属76種に分類し、さらに、各種の分布域を高精度で示しました。これらの研究成果をまとめた論文が11月5日(木)、分類学の専門誌『Megataxa』(Magnolia Press/ニュージーランド)のオンライン版に掲載されました。(DOI:10.11646/megataxa.3.1.1)

<本研究成果のポイント>
・ソコダラ類は深海底を代表する魚類の一群で、水産的に重要なタラ類において最も種多様性が高く、生物学および水産学の様々な分野で研究対象とされてきたが、分類の難解さが多くの研究者にとっての課題となっていた。
・日本とその周辺海域におけるソコダラ類の分類をかつてない規模の標本調査と総合的な形態観察に基づき再検討することによって、4新種を含む18属76種を認め、同海域におけるソコダラ類の高い種多様性を明らかにした。また、各種の分布域を高精度で示した。
・日本のソコダラ類のように比較的よく研究されてきたグループでも未知の種が複数存在し、既知種の学名も大きく混乱していたことから、深海性魚類の種多様性に関する研究がいまだに発展途上にあることが示唆された。
・新たに発見した分類形質を取り入れ、専門家以外でもソコダラ類の同定が容易にできるよう検索表を一新した。

<論文情報>
論文タイトル : Grenadiers (Teleostei: Gadiformes: Macrouridae) of Japan and adjacent waters, a taxonomic monograph.
著 者 : 中山直英(東海大学海洋学部海洋生物学科 助教)
掲載誌 : 『Megataxa』 オンライン版(2020年11月5日掲載)
DOI : 10.11646/megataxa.3.1.1
URL : https://www.mapress.com/j/mt/article/view/megataxa.3.1.1
※本研究の一部は科学研究費助成事業(JP16H06896およびJP18K14509)および笹川科学研究助成の
支援を受けて行いました

■本研究の背景
ソコダラ類(硬骨魚綱:タラ目:ソコダラ科)は370種以上を含む代表的な深海性魚類で、世界の海洋に広く分布し、水産的に重要なタラ目において最も種多様性が高い一群です。本グループは生物量も膨大であることから、深海生態系において重要な役割を担っていると考えられ、これまで分類学のみならず、形態学、生態学、生理学、分子生物学、水産学など、様々な分野の研究対象とされてきました。しかし、多くの種で外見的な特徴が酷似しており、標本の同定が難しく、分類の難解さが研究のハードルを上げていました。また、海域間での調査の偏りや、分類の混乱に起因する誤同定などから、日本近海における各種の分布の境界についても不明な点が残っていました。

■研究成果の要点
本研究では、日本とその周辺海域に出現するソコダラ類の分類と分布情報を、12カ国・30の研究機関に所蔵されている標本の調査、日本各地におけるフィールドワーク、および新旧手法を統合した形態観察に基づき半世紀ぶりに再検討しました。7,800個体以上のソコダラ類の標本を形態学的に精査し、新種を含む18属76種(このうち15属70種が日本の排他的経済水域内に出現)が、この海域に生息することを明らかにしました【図1】。また、これまで有効と考えられてきた既知の8種の学名が無効であることを突き止めました。さらに、新たに発見した分類形質(体色や鱗の分布や発達様式など)を取り入れ、分類の専門家以外でも標本を容易かつ正確に同定できるよう、種の検索表を一新しました。一方、本研究で行った標本調査の過程において、先行研究による多くの標本の誤同定が訂正され、各種の分布域の輪郭も高精度に示されました【図2】。なお、本研究の成果は383ページに及ぶモノグラフ(分類に関する情報を統合的にまとめた単一の大型論文)としてまとめられました。

■今後の展開と波及効果
本研究により、日本近海に出現するソコダラ類の形態情報、分布情報、性的二形などを含む種内変異、種間の類似点と相違点、既知の学名の同異(異名関係)などが集約的に整理され、この海域における本グループの分類学的な多様性を俯瞰することが可能になりました。また、種の検索表が刷新・改訂されたことにより、本海域におけるソコダラ類の同定の難解さが解消されるほか、これらの成果が分類学のみならず、生物多様性に関わる関連分野の基礎情報として幅広く利用されることも期待されます。

■論文著者略歴
氏  名 : 中山 直英〔なかやま なおひで〕
所属・身分 : 東海大学海洋学部海洋生物学科 助教
専門分野 : 系統分類学、多様性生物学、魚類学
研究テーマ : 深海性魚類の系統分類学的研究、静岡県の海産魚類相
研究内容 : 「分類学」と「形態学」を基軸に、深海魚を含む魚類の多様性を探求
所属学会 : 日本魚類学会、日本動物分類学会


【図1】本研究で記載されたソコダラ類の4新種の標本
ヤジリヒゲ
〔Coelorinchus lanceolatus〕 小笠原諸島沖の水深521~536 mから発見。(全長255 mm)
ヤミヒゲ
〔Coelorinchus nox〕 東シナ海・沖縄舟状海盆の水深560~815 mから発見。(全長346 mm)
クロネズミダラ
〔Kuronezumia endoi〕 駿河湾と土佐湾の水深約500 mから発見。(全長215 mm)
カクレヒゲ
〔Nezumia rara〕 駿河湾、伊豆諸島沖、鹿島灘の水深621~1,100 mから発見。(全長419 mm)

【図2】日本とその周辺海域におけるソコダラ類4種の分布(膨大な標本の検討により、調査海域における各種の分布域の輪郭が明瞭になった)※分布図は、今回の4新種とは別の種のものとなります


■本件に関するお問い合わせ
東海大学清水事務課 担当:石田・石神・逆井
TEL.054-334-6913(直通)
【図1】© Magnolia Press.クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 非営利4.0国際)https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/
【図2】© Magnolia Press.クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 非営利4.0国際)https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/

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