水前寺成趣園と阿蘇・波野の芝草が遺伝的に近縁であることを解明~350年以上の時を経て、水前寺成趣園の芝草の移植起源地に迫る~

2018年06月26日

▲水前寺庭中之図
東海大学[熊本キャンパス]大学院農学研究科の村田達郎教授らの研究グループは、水前寺成趣園の芝草と阿蘇市波野地域で採集した芝草との遺伝的類縁関係を評価した結果、双方が遺伝的に近縁であることを明らかにしました。この研究成果は、起源地に関する記録が残っていない水前寺成趣園の芝草が、波野地域から移植された可能性があることを示唆しています。
なお、本研究成果は、2018年6月10日(日)に開催された「2018年度日本芝草学会春季大会」にて発表いたしました。

■本研究のポイント
●RAPD法ならびに形態学的観察により、水前寺成趣園と阿蘇市波野地区の芝草が遺伝的に近縁にあることを解明
●水前寺成趣園の芝草が旧阿蘇郡波野地域から移植された可能性があることを示唆
●熊本のシンボルとも言える水前寺成趣園の歴史を解き明かす上で大きな意義

■研究テーマ
水前寺成趣園の日本シバにおける分子生物学および形態学的アプローチによる由来地の推定

■研究グループ
宮地伯明(東海大大学大学院農学研究科修士課程)
川本成人(東海大学農学部応用植物科学科卒業生)
森田敦士(東海大学農学部応用植物科学科卒業生)
松田靖(東海大学農学部応用植物科学科准教授、東海大学大学院農学研究科農学専攻准教授)
村田達郎(東海大学農学部応用植物科学科教授、東海大学大学院農学研究科農学専攻教授)

■研究の背景
 熊本市にある水前寺成趣園は、熊本藩細川家の初代藩主・細川忠利が1636年(寛永13年)頃から築いた「水前寺御茶屋」を始まりとし、1600年代後半、細川家3代綱利の頃にほぼ現在の形となったとされる大名庭園で、全国的にも有数の桃山式回遊庭園です。園内は、芝草や松などの植木で「東海道五十三次」を模した造りになっており、現在も国内外から多くの観光客が訪れています。
熊本では古来、水前寺成趣園の芝草(Z. japonica)は、阿蘇市波野地域(旧波野村)からを中心に移植されてきたと語り継がれていますが、これまでその起源地に関する記録は残されていませんでした。
そこで本研究では、現在までに推定されていない水前寺成趣園の芝草の起源地推定を目的とし、RAPD法、形態学的観察、ならびに組織的観察により、波野地域からの採集系統を中心に熊本県内で採取した系統と水前寺成趣園で植栽されている個体の遺伝的類縁関係および表現型形質による評価を行いました。

■材料および方法
1.RAPD法による遺伝的類縁関係評価
 供試材料として、水前寺成趣園で管理され観覧者の踏み込みがないことから、開園当初の芝草が保持されていると推測した、富士を象った芝山の麓(水前寺③)、山頂(水前寺④)から採集した2系統、起源地と予測した波野地域から採集の3系統(B126~B128)、波野・草千里で採集した16系統およびコントロールとして登録品種の‘Meyer’と‘ビクトール’の2品種を用いました[図1]。
また、若い葉から単離したDNAを供試し、5種類のランダムプライマー(OPC-1~2、OPC-4~6)で増幅し、電気泳動後にDNA断片を検出[図2]。得られた増幅DNA断片を0/1データに変換した後、多変量解析ソフト(JMP)を用いてクラスター解析を行いました[図3]。さらに、水前寺成趣園の他の場所で採集した7系統を加えた9系統で、上述した方法でクラスター解析を行いました[図4]。

2.表現型形質による評価
 RAPD法に用いた供試材料から、系統B92および登録品種Meyerとビクトールを除いた27系統を対象とし、葉の形状や草勢などの5項目の外部形態を調査しました。また、各系統3個体の第2葉からパラフィン切片を作成し、顕微鏡下で中央大維管束、大維管束および小維管束の形態を調査しました。

■結果および考察
 水前寺③、水前寺④の2系統を供試した際のクラスター解析を行った結果、3つのクラスターが形成され、クラスターⅠには水前寺③、水前寺④、B2、B25および波野で採集したB126~B128が混在し、遺伝的に類似していることが明らかになりました[図3]。そこで、水前寺成趣園で採集した7系統を加え、クラスター解析を行った結果、4つのクラスターが形成されましたが、この場合もクラスターⅠは水前寺③、水前寺④、B2、波野で採集した3系統で構成されていました[図4]。このように水前寺③、水前寺④と波野で採集した系統と遺伝的に近いという結果となりました。また、水前寺成趣園で採集した系統は異なる遺伝子型であったため、同一クローンではないと考えられます。クラスターⅠに構成された系統において,葉の形態および維管束数において顕著な差はみられませんでした[表1]。以上の結果により、今回調査対象とした水前寺③と水前寺④は非常に遺伝的に近縁であり、B147、B148とも近縁であることが明らかになったことから、水前寺成趣園に使用されている芝草は波野から移植された系統である可能性が示唆されました。


■本件に関するお問い合わせ
東海大学熊本キャンパス 九州教学課入試広報担当 小田・赤尾
TEL.096-386-2608




[図1]各採集地と系統
[図2]供試系統におけるRAPDプライマー(OPC-2)による増幅パターン
[図3、図4]クラスター解析による遺伝的類縁関係
[表1]クラスターⅠに構成された系統の表現型形質

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