心臓性突然死の3分の1は「運動不足」に起因か ~デンマーク国民データ28年間の追跡調査で判明 法医学が示す予防の重要性~

2026年03月26日

 東海大学[伊勢原キャンパス]医学部医学科基盤診療学系法医学の磯崎翔太郎講師らの研究グループは、デンマークの個人識別番号(CPR番号)を活用した大規模調査により、「余暇時間の運動習慣が心臓性突然死*1のリスクを劇的に下げる」ことを科学的に証明しました。 

 約1万人を28年間にわたって追跡した結果、日常的に高いレベルの運動を行っている人は、運動習慣のない人と比べて心臓性突然死のリスクが約50%低いことが判明。さらに、統計解析により、心臓性突然死の約3分の1(3件に1件)は、運動不足を解消することで回避できた可能性があることが示されました。

<本研究のポイント

28年超の長期追跡:デンマークの精緻な国民データを用い、約1万人の経過を四半世紀以上にわたり正確に把握

●リスク半減:散歩や自転車などの余暇時の身体活動が多いほどリスクが低下。高い活動量でリスクが50%減少

●心臓性突然死の33%が予防可能:統計解析により、身体活動不足を解消することで、突然死の約3分の1を回避できた可能性を算出

●法医学の新たな役割:亡くなった後の解明にとどまらず、突然死を未然に防ぐための具体的な生活指針を提示


 本研究は、死因究明を主とする法医学的知見を、未来の命を守る「公衆衛生・予防医学」へと発展させた成果です。本内容は、202639日付で国際学術誌『eClinicalMedicineThe Lancet姉妹誌)』に掲載されました。

 

■研究の背景:予測困難な「突然死」に挑む

 心臓性突然死は、全死亡の約10%、心血管死亡の50%を占める重大な健康課題です。その多くは前兆なく突然発症するため、予測が極めて困難であり、「発症してから治療する」のではなく「発症を未然に防ぐ(予防)」ことが唯一の対策とも言われています。これまで運動が心血管疾患全般に良いことは知られていましたが、「突然死」との長期的な関連、さらに「もし運動をしていたら、どの程度の突然死が防げたのか」を定量的に示したデータは世界的に不足していました。

 

■研究成果:運動強度の増加とともにリスクが明確に低下

 本研究では、1991年から2021年まで、約1万人のコペンハーゲン市民を追跡調査しました。

「低活動群(週2時間未満の軽い運動)」と比較して、中等度の活動で約40%、高い活動で約50%、心臓性突然死のリスクが有意に低下しました。

【図1

突然死.jpg

 低活動群を対照とした、中活動(緑色)、高活動(橙色)の心臓性突然死のハザード比*295%信頼区間

Model1:性別、年齢、喫煙、飲酒量、収入、学歴で調整

Model2:Model1に心血管疾患の既往、糖尿病の既往、BMIを加え調整

 

集団寄与危険度(PAF)の解析により、もし社会全体が身体活動不足を解消できていれば、心臓性突然死の約33%は発生しなかった可能性があることが示されました。

【図2

突然死2.jpg 

女性(左)、男性(右)の心臓性突然死の人口標準化累積罹患率

青色:低身体活動、緑色:中等度身体活動、赤色:高身体活動

縦軸:1993年のデンマークの人口分布で標準化した心臓性突然死の累積罹患率*3

横軸:初回調査からの経過年数(年)

 

 初回の調査から約10年後に活動量を再評価した結果、直近の活動状況がより強くリスク低下に関連していました。これは、「かつて運動していた」ことよりも「今、運動を継続している」ことが、突然死予防に直結することを示唆しています。

 

■社会的意義:特別なトレーニングではなく「余暇の活動」で命を守る

 本研究で定義された「高い活動量」とは、アスリートのような激しい訓練ではなく、日常的な散歩、自転車、スポーツなどの積み重ねです。特別な設備がなくても取り組める「余暇の運動」が、救命が困難な突然死に対する強力な防御策になり得ることを、本研究は科学的エビデンスとして提示しました。

 

■研究代表者コメント

東海大学医学部医学科基盤診療学系法医学 講師 磯崎翔太郎

 「これまで法医解剖医・監察医として突然死の診断に向き合う中で、限られた情報から死の背景を十分に説明できないことへの歯がゆさを感じてきました。デンマークでは、全国民に付与される個人識別番号(CPR番号)を用いた長期追跡が可能であり、突然死の診断精度と疫学データを高いレベルで統合できます。こうした国際的な連携並びにトップレベルの循環器内科医や疫学研究者とのコラボレーションにより、突然死の死因を解明するだけでなく、その背景にある生活習慣や予防可能な要因を明らかにすることができます。法医学が、犯罪防止や死因究明の枠を超え、公衆衛生や予防医学にも貢献する分野へと進化していく、その一つの可能性を示せたのではないかと考えています」。

 

■論文情報

掲載誌 eClinicalMedicine - Part of THE LANCET Discovery Science
論文タイトル Leisure-time Physical Activity and Risk of Sudden Cardiac Death: A 28-Year Follow-up from the Copenhagen City Heart Study(余暇時身体活動と心臓性突然死の長期リスク:コペンハーゲン心臓研究)

著者

磯崎翔太郎1,2,3、Tobias Skjelbred 3, Peder Emil Warming 3, Eleonora Casarini 3, Eva Irene Bossano Prescott 4, Reza Jabbari 3, Jasmin Mujkanovic 2,3, Jacob Tfelt-Hansen 2,3

1. 東海大学医学部医学科 基盤診療学系法医学

2. コペンハーゲン大学法医学研究所 法医遺伝学部門

3. デンマーク王立病院循環器センター 心臓性突然死研究班

4. ビシュペビャウ・フレゼレクスベア病院 循環器内科

DOI https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2026.103825

 

【用語説明】

*1心臓性突然死:

「心臓に原因がある、ないし原因があると推定される突然死」のこと、本研究では目撃ありの症例では発症後1時間以内、目撃なしの症例では最終生存確認時刻から24時間以内の死亡と定義した。

*2ハザード比:

対照(本研究では低身体活動群)に対して、イベント(本研究では心臓性突然死)がどの程度のスピードで起きるかを表す指標。ハザード比0.5であれば低身体活動と比べて50%リスクが低いと解釈できる。

*3累積罹患率:

観察開始からある期間までに、イベント(本研究では心臓性突然死)が生じる確率。20年時点で0.02であれば、追跡開始後20年でグループ内において2%の人に心臓性突然死が生じている。

 

 

<研究に関するお問い合わせ>

東海大学医学部医学科 基盤診療学系法医学 講師

コペンハーゲン大学法医学研究所 法医遺伝学部門 客員研究員

デンマーク王立病院循環器センター 心臓性突然死研究班 客員研究員

磯崎 翔太郎

TEL:0463-93-1121(代表)

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学医学部付属病院 事務部事務課(広報)

 TEL:0463-90-2001(直通)E-mail:prtokai@tokai.ac.jp

 

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