新鉱物「北海道⽯」を北海道の2 産地から発⾒

2023年05月26日

北海道河東郡⿅追町および北海道上川郡愛別町の⼭林より、新鉱物「北海道⽯(ほっかいどうせき)、
学名:hokkaidoite(ホッカイドウアイト)」を発⾒しました。この鉱物は令和5 年1⽉に国際鉱物学連
合で承認・登録されました。北海道⽯は、炭素および⽔素のみよりなる有機化合物「ベンゾ[ghi]ペリレ
ン」の天然結晶であり、紫外線を照射すると美しく蛍光する希少な鉱物です。現在、産地は保護のため
⼀般公開はしておりませんが、登録記載のため採取された標本等を、とかち⿅追ジオパークビジターセ
ンター、北海道⼤学総合博物館、環境省・上⼠幌町ひがし⼤雪⾃然館、北海道博物館で展⽰予定です。

【今回の発表のポイント】
● 新鉱物「北海道⽯」を発⾒した。これは、国際機関により承認・登録された
● 北海道⽯は有機化合物の鉱物であり、地層中の⽣物の化⽯が⽕⼭の地熱を受けてできる
● 北海道⽯を含むオパールは、紫外線照射により美しい蛍光を発する
● 北海道⽯は、⽯油⽣成の謎を解く鍵になる情報を含んでいる

【概要】
公益財団法⼈ 相模中央化学研究所 ⽥中陵⼆ 主任研究員(兼務:東海⼤学客員教授)、⽇本地学研
究会 萩原昭⼈、⼤阪⼤学総合学術博物館 ⽯橋 隆 招へい研究員、九州⼤学⼤学院理学府 井上裕貴の
研究グループは、北海道河東郡⿅追町および上川郡愛別町の⼭林より、世界初となる新鉱物「北海道⽯」
を⾒出し、令和5 年1⽉に国際鉱物学連合において命名承認・登録を受けました (登録番号IMA2022-
104)。これはまた、⽇本における初めての多環芳⾹族炭化⽔素鉱物の例でもあります。北海道⽯は、⿅
追町では⽕⼭中腹にかつて存在した古温泉により形成されたオパール中に含まれており、愛別町では鉱
⼭跡の⽯英(⼆酸化ケイ素)よりなる鉱脈の空隙に淡⻩⾊板状の結晶として産します。特に⿅追町にお
いては、オパールの中に微細な淡⻩⾊樹枝状結晶として多量に⾒られ、紫外線照射により美しい⻩⾊〜
⻩緑⾊蛍光を発します。北海道⽯は、炭素および⽔素のみよりなる有機化合物「ベンゾ[ghi]ペリレン」
の天然結晶です。これは、コロネンと呼ばれる有機化合物の天然の前駆物質であると考えられ、北海道
⽯の産出は従来詳細な情報がなかったコロネンの⽣成メカニズムや純粋になるプロセスの有⼒な情報を
与えるものです。本研究の成果は、5 ⽉26 ⽇に開催される⽇本地球惑星科学連合2023 年⼤会において
扱 い 報道解禁の⽇時は以下のとおりお願いします
ラジオ・テレビ・インターネット : 5 月 26 日(金) 17 時以降
新 聞 : 5 月 27 日(土) 朝 刊
⼝頭講演およびポスター発表されます。
現在、北海道⽯の産地は保護のため⼀般公開はしておりませんが、記載のため採取された北海道⽯お
よび関連鉱物の標本等を、とかち⿅追ジオパークビジターセンター、北海道⼤学総合博物館、および環
境省・上⼠幌町 ひがし⼤雪⾃然館で展⽰される予定です。なお、展⽰する標本(試料)は、⼟地所有者
の事前了解や各種法令に基づく許可を得た上で採取されたものです。

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
相模中央化学研究所
⽥中 陵⼆
電話: 0467-76-9265
E-mail: rtanaka@sagami.or.jp
<報道に関すること>
⼤阪⼤学総合博物館
⽯橋 隆
電話:090-4793-0292
E-mail: t1484@d9.dion.ne.jp

【詳細な説明】
多環芳⾹族炭化⽔素(PAH)(注1)はその特異な電⼦的性質から、光機能性材料をはじめとして
様々な材料分野で利⽤される有機化合物です。これは、有機化合物の中では⾼い熱安定性を有し、燃焼
ススなどにも少量⾒いだされます。そのうち、コロネン(注2)と呼ばれる、芳⾹環が7つ連結した物
質は天然にも存在し、⾼温でも最も安定なPAH として、地質年代上の破局的⾼温イベントなどの証左
にもなっています。コロネンは原油中にもごく微量含まれますが、ときおり純粋な結晶として天然に産
出することがあり、これはカルパチア⽯(注3)という名称で知られる有機化合物の鉱物です。しかし、
なぜコロネンなどのPAH が地質学的作⽤で純粋な結晶になるのかは、現在まではっきりとした証拠が
ありませんでした。⼀⽅、北海道河東郡⿅追町では、⽕⼭の中腹にオパール(注4)を産し、これは紫
外線照射により蛍光を強く発することが2014 年頃より知られていました。しかし、このオパールの蛍
光の原因は、国内外で検討されたものの、全く不明でありました。
我々の研究グループは最近、⽇本のプレート沈み込み帯での炭素元素の循環過程を研究しています。
この研究において、北海道上川郡愛別町にて、紫外線照射により強い蛍光を発する鉱物結晶を複数種⾒
いだしました。また、ほぼ同時に⿅追町の蛍光性オパール中の蛍光原因物質も併せて検討を⾏いました。
その結果、これらのひとつは⽇本新産鉱物であるカルパチア⽯であり、さらに、現在までに報告例のな
かったベンゾ[ghi]ペリレン(注5)を構成成分とする鉱物が多数含まれていることをつきとめました。
後者については、記載に必要な構造や化学組成などのデータを収集し、新鉱物「北海道⽯ (hokkaidoite)」
として国際鉱物連合(注6)に提出し、令和5 年1⽉に承認・登録されました(登録番号IMA2022-104)。
⼆産地のうち、記載に⼗分なデータが取得できた⿅追町の産地を主模式産地とし、愛別町の産地は副模
式産地として設定しました。両産地より得られた標本のうち、データ取得に⽤いたものは主模式標本お
よび副模式標本として国⽴科学博物館に収蔵されています。
北海道⽯の化学組成はコロネンに対し炭素原⼦が2つ少ないベンゾ[ghi]ペリレンであり、地質学的な
コロネンの⽣成は、このベンゾ[ghi]ペリレンを経由していることが推測されます。このようなコロネン
分⼦の⽣成メカニズムは、従来は理論計算によって予測されていましたが、本研究により天然からの多
量の産出をもってそれを裏付けることができました。
⽯油や⽯炭など、地質学的成因による有機化合物は、地下深部や海底に堆積した古⽣物の遺骸が⾼い
圧⼒や温度により変質して⽣じるものと推測されています。北海道⽯においても、同様に地下深部に眠
る古⽣物遺骸への、⽕⼭活動による熱または⾼温の⽔(熱⽔)の作⽤により⽣じた熱安定性分⼦である
ことが予想されます。熱⽔による地層中の有機物の変質と輸送は、熱⽔性⽯油という⽯油の⽣成におい
て重要なものです。本研究における北海道⽯を代表とする有機鉱物は、熱⽔による変質が極端に進⾏し
た熱⽔性⽯油の⼀種とみなすことができ、この機構の解明は現在においても謎が多い⽯油⽣成機構の⼀
つの解としての意義があります。
また、⿅追町の産地では、⼤雪⼭国⽴公園の⽕⼭中腹にかつて⾃噴してした古温泉により沈澱形成し
た珪華中に⼤⼩のオパール脈がみられ、ここに北海道⽯やカルパチア⽯が含まれています。この脈はは
っきりとした層状を⽰し、層によって包有される有機化合物の種類が全く異なります。これは、熱⽔に
よりベンゾ[ghi]ペリレンやコロネンなどの有機成分が運ばれ、特定の成分から順に結晶化を起こすとい
う分別結晶化現象が起こっていることを⽰しています。
このオパールは、⾁眼でもオレンジ⾊〜ベージュ⾊の層状を⽰しますが、紫外線照射により⻘〜⻩⾊
〜オレンジなどの⾊とりどりの蛍光を発する、世界でも類を⾒ない美しく貴重なものです。緻密な部分
は、研磨して宝飾品にすることも⼗分可能です。北海道⽯やカルパチア⽯などの有機鉱物は、⻩⾊〜⻩
緑⾊の蛍光を発する層に含まれており、このオパールの美しい蛍光を⽣み出す鍵になる成分であること
がわかりました。このオパール産地は戦前より⼤雪⼭国⽴公園内であるにもかかわらず、最近は盗掘さ
れたおそれのある品がインターネットなどで多数売買されている状況です。この新鉱物「北海道⽯」を
含むオパールとその産地について、地質学的・鉱物学的な重要性の啓発も併せ、後世に受け継げるよう
保全することが喫緊の課題となっています。

【学会情報】 発表学会名:⽇本地球惑星科学連合2023 年⼤会
発表タイトル:北海道⽯.新規な多環芳⾹族炭化⽔素鉱物とその⽣成メカニズム(Hokkaidoite. New
Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Mineral and its Formation Mechanisms)
著者:⽥中 陵⼆1,2、萩原 昭⼈、⽯橋 隆3、井上 裕貴4 (1. 相模中央化学研究所、2. 東海⼤学理学部化学
科、3. ⼤阪⼤学総合学術博物館、4. 九州⼤学⼤学院理学府地球惑星科学専攻)
講演番号:SCG48-11 (2023 年5 ⽉26 ⽇(⾦))

【学会情報】 発表学会名:⽇本地球惑星科学連合2023 年⼤会
発表タイトル:北海道で産出した多環芳⾹族炭化⽔素鉱物のキャラクタリゼーションとその多様性
(Characterization of Various Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Minerals Found in Hokkaido)
著者:井上 裕貴1、⽥中 陵⼆2、⽯橋 隆3、萩原 昭⼈(1. 九州⼤学⼤学院理学府地球惑星科学専攻、2.相
模中央化学研究所、3. ⼤阪⼤学総合学術博物館)
講演番号:SCG48-P01 (2023 年5 ⽉26 ⽇(⾦))

【⽤語の説明】
(注1)多環芳⾹族炭化⽔素:炭素6 個の六⾓形のベンゼン環(芳⾹環)⾻格が複数個、六⾓形の辺を
共有するように連結(縮合)し、周囲に⽔素が結合した炭化⽔素化合物。環が2個のナフタレン、3つ
のアントラセンとフェナントレンなどは、⼯業的に⽣産され⾝近にもある。環数の多いものは主に有機
化合物の燃焼により⽣じ、分解されることなく環境中にとどまるため、環境汚染物質としても知られる。
(注2)コロネン:組成式 C24H12 の、芳⾹環7つよりなる多環芳⾹族炭化⽔素化合物(図1)。⻩⾊針
状結晶になり、酸素不在下では1000℃の⾼温にも耐える⾼い熱安定性をもつ。天然においては、約2 億
5,100 万年前の古⽣代―中⽣代境界(P-T 境界)の地層中に含まれており、その時点で地球レベルでの
⼤規模な⽕災が起こったことの証拠にもなっている。
(注3)カルパチア⽯:天然における、コロネンを構成成分とする鉱物。1955 年にトランスカルパチア
(ウクライナ)で初めて発⾒され、その後ロシアやカリフォルニア(アメリカ合衆国)等で相次いで産
出が報告された。⻩⾊針状結晶であり、紫外線照射により強い⻘⾊〜⻩緑⾊蛍光を⽰す。⽇本で発⾒さ
れたのは、本研究が初めてである。
(注4)オパール:結晶になっていない(⾮晶質)、⽔を含んだ⼆酸化ケイ素の鉱物。美しいものは研
磨加⼯され、宝⽯として珍重される。構造⾊を⽰すノーブルオパールと、そうでないコモンオパールと
に分類される。
(注5)ベンゾ[ghi]ペリレン:組成式 C22H12 の、芳⾹環6つよりなる多環芳⾹族炭化⽔素化合物(図
2)。レモン⻩⾊の板状結晶であり、クロロホルムなどの有機溶剤に溶ける。天然においては、コロネ
ンに伴って微量に産するほか、⽯油等にも痕跡量含まれることがある。本研究で発⾒した北海道⽯は、
これを構成成分とした天然の結晶である。
(注6)国際鉱物学連合:鉱物学の発展と鉱物名の統⼀を⽬的とする、38 か国の学術団体により構成さ
れる国際組織。新鉱物の発⾒時においては、新鉱物・命名分類委員会によりデータが検討され、委員の
投票により新鉱物とその命名の承認・登録が⾏われる。
図1. コロネンの分⼦構造(左:全原⼦の配列構造、右:有機化学的略記構造)
図2. ベンゾ[ghi]ペリレンの分⼦構造(左:全原⼦の配列構造、右:有機化学的略記構造)
写真1.北海道⽯を含むオパール(⿅追町産.紫外線照射下、⻩⾊く蛍光する部分が北海道⽯).©⽥ 中陵⼆

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