深海魚アシロ科フクメンイタチウオ属魚類の新種を発見~鰓の表面構造などから2新種を新たに分類・命名~

2021年03月23日

東海大学海洋学部の海洋科学博物館 学芸員 冨山 晋一〔とみやま しんいち〕らの研究グループは、深海性アシロ科魚類のイシフクメンイタチウオに関する分類学的混乱を解決し、これまで本種と混同されていた2種を新種として報告しました。なお、この研究成果をまとめた論文が3月16日(火)、日本魚類学会発行の学会誌『Ichthyological Research』のオンライン版(https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10228-021-00809-2)に掲載されました。

本研究グループが報告したフクメンイタチウオ属の新種は、2016年、2018年に続き計4種となりました。採集調査の機会が限られる深海性魚類の分類学的研究には未だ多くの課題が残されており、今後も様々な分類群を対象に研究に取り組むことで種の多様性の解明に貢献してまいります。


<本研究成果のポイント>
□深海性のアシロ科フクメンイタチウオ属魚類には従来14種が知られ、これらのうちイシフクメンイタチウオBassozetus robustusは西太平洋、インド洋および大西洋に広く分布するとされてきたが、本研究グループが「イシフクメンイタチウオ」とされる各海域産の計47標本(本学海洋科学博物館のほか、日本、アメリカ、ニュージーランド等の10研究機関が所蔵)を精査した結果、本種のほかに未知の2種が混同されていたことが判明した。

□2種の新種をそれぞれBassozetus trachibranchus(英名:Rough Gills Assfish)およびBassozetus squamosus(英名:Scaly Assfish)として記載・命名。また、イシフクメンイタチウオについても今後の分類学的混乱を避けるために再記載した。

□3種の形態は互いに酷似するが、頭長に対する眼径の比率、鰓弓(呼吸器官である鰓の一部)の表面構造および横列鱗数(肛門から前上方へ背鰭の基底まで並ぶ鱗数)などの特徴に基づき互いに識別された。


<論文情報>
論文タイトル : Description of two new species of Bassozetus (Ophidiiformes: Ophidiidae) and a redescription of Bassozetus robustus Smith and Radcliffe 1913
著 者 : 冨山晋一(東海大学海洋科学博物館 学芸員)、高見宗広(東海大学海洋学部水産学科 特任講師)、福井篤(東海大学海洋学部水産学科 教授)
掲載誌 : 『Ichthyological Research』 オンライン版(2021年3月16日掲載)
DOI:https://doi.org/10.1007/s10228-021-00809-2
URL:https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10228-021-00809-2


<論文著者略歴>
氏 名 : 冨山 晋一(とみやま しんいち)
所属・身分 : 東海大学海洋学部博物館業務課 学芸員
専門分野 : 魚類学
研究テーマ : 深海性魚類の分類学的研究、駿河湾の魚類相研究
研究内容 :
◆大学や博物館等が所蔵する標本の調査によって、アシロ科やボウエンギョ科などの新種や日本初記録種を報告している。
◆標本収集と過去の知見の整理による駿河湾産魚類相の解明を目指している。
所属学会 : 日本魚類学会、日本生物地理学会、日本分類学会


氏 名 : 髙見 宗広〔たかみ むねひろ〕
所属・身分 : 東海大学海洋学部水産学科生物生産学専攻 特任講師
専門分野 : 魚類学
研究テーマ : 深海性魚類の初期生活史や分類に関する研究、駿河湾の深海性魚類相に関する研究
研究内容 :
◆深海域の調査や博物館等における標本調査によってセキトリイワシ科、アシロ科、クロボウズギス科などの未記載種や日本初記録種を発見し、記載報告している。
◆中・漸深層における深海性魚類の仔稚魚の形態や生態に関する研究,駿河湾産深海性魚類相の解明などを行っている.
所属学会 : 日本魚類学会


氏 名 : 福井 篤〔ふくい あつし〕
所属・身分 : 東海大学海洋学部水産学科生物生産学専攻 教授
専門分野魚類学、資源生物学
研究テーマ : 海産魚類の個体発育と体系学(初期生活史や深海性魚類の分類学的研究)
研究内容 :
◆外洋性の仔稚魚の個体発育や中深層性魚類の分類
北西太平洋外洋域に出現するダルマガレイ科などの外洋性仔稚魚の形態、発育を明らかにしている。 仔稚魚の研究過程で、ダルマガレイ科、デメニギス科、およびハダカエソ科などの計9種の新種記載を行っている。
◆駿河湾の中深層性魚類および深海底棲性魚類の分類と形態
駿河湾陸棚斜面の近底層および駿河トラフにおいて、仔稚魚から成魚までを採集できる方法を開発し、小型舟艇の「北斗」や海洋調査研修船「望星丸」を用いて、調査を実施。 今まで知見がほとんどなかったソコダラ科やセキトリイワシ科などの個体発育を明らかにしている。 その過程で、約7種の日本初記録を報告している。
◆駿河湾産サクラエビの資源量モニタリング
コホート解析によって、駿河湾における1999年級以降のサクラエビの加入量を推定し、モニタリングしている。
担当授業科目 : 魚類学、生物統計学、資源生物学、海洋実習3など
所属学会 : 日本魚類学会、水産海洋学会、日本水産学会
主な論文・著書 :
・「Early ontogeny and systematics of Bothidae,Pleuronectoidei.」
・「日本産稚魚図鑑第2版 沖山宗雄編」東海大学出版会



<新種①>
Bassozetus trachibranchus(英名:Rough Gills Assfish)
西大西洋の水深約1,200~2,000 mに生息
(最大体長:423 mm)
<新種②>
Bassozetus squamosus(英名:Scaly Assfish)
西インド洋と南西太平洋の水深約1,600~2,800 mに生息
(最大体長:505 mm)
<新種③>
Bassozetus robustus(標準和名:イシフクメンイタチウオ)
日本の領海を含む西太平洋の水深約800~1,900 mに生息
(最大体長:525 mm)


<この件に関するお問い合わせ>
東海大学清水事務課 担当:石田・石神・逆井
TEL.054-334-6913(直通)
<新種①>Bassozetus trachibranchus(英名:Rough Gills Assfish)
<新種②>Bassozetus squamosus(英名:Scaly Assfish)
<再記載した既知種>Bassozetus robustus(標準和名:イシフクメンイタチウオ)

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