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発電と水素製造を1枚の膜で同時実現 ~水に浮かべて光を当てるだけの新しいエネルギーデバイスを開発~
2026年07月02日
東海大学[湘南キャンパス]工学部応用化学科の高尻雅之教授と源馬龍太准教授の研究グループは、水面に浮かべて紫外光を当てるだけで、発電(熱電発電)*1と水素製造(光触媒反応)を同時に行える、フレキシブルな単層カーボンナノチューブ(CNT)*2/グラファイト状窒化炭素(g-C₃N₄)*3複合膜デバイスを開発しました。本研究成果は2026年6月25日に、水素エネルギー分野の国際学術誌「International Journal of Hydrogen Energy」のオンライン版に掲載されました。
本研究では、光触媒材料であるg-C₃N₄をCNTに組み合わせることで、1枚の膜の中で「光触媒による水素製造」と「熱電発電」が並行して進むことを確認しました。g-C₃N₄をCNTに少量加えた複合膜では、熱電性能の指標であるパワーファクター*4がCNT単体の約2.6倍に向上しました。
また、水に浮かべたデバイスに紫外光を照射したところ、出力電圧は最大5.1 mV(CNT単体比38%向上)に達しました。紫外光照射下で水素とメタンの生成も確認しており、発電と水素製造を一体化した新たな多機能エネルギーハーベスティング技術の基盤になることが期待されます。
一方で、現時点では強い紫外光と犠牲剤*5を必要とする原理実証の段階です。今後は、可視光をより有効に使える材料開発や自然太陽光下での性能評価、長期安定性の検証などを進め、実用化に向けた課題の解決を目指します。
<ポイント>
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●水に浮かべて紫外光を当てるだけで、発電と水素製造を同時に行うデバイスを開発 CNT/g-C₃N₄複合膜を水面に浮かべ、膜の一部が水に触れることで生じる蒸発冷却*6と、光触媒反応を組み合わせました。 ●熱電性能が約2.6倍に向上 g-C₃N₄をCNTに7.5%加えた複合膜で、パワーファクターが18.3 µW/(m・K²)となり、CNT単体の約2.6倍に向上。 ●出力電圧は最大5.1 mVを達成 g-C₃N₄の割合を高めたデバイスでは、紫外光照射時の出力電圧がCNT単体比38%向上。 ●紫外光照射下で水素とメタンの生成を確認 犠牲剤を用いた条件で、紫外光を5時間照射した際に、水素0.57 µmol、メタン1.12 µmolの生成を確認しました。 ●実用化に向けた課題を提示 強い紫外光と犠牲剤を用いた原理実証であり、可視光対応や長期安定性が今後の課題です。 |

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図1 水面に浮かべた複合膜デバイス。光を当てるだけで発電と水素製造ができる |
■研究の概要
熱電発電デバイスは、材料内の温度差から電圧・電力を取り出すデバイスです。従来は外部から温度差を与え続ける必要があり、これが熱電発電の大きな課題でした。本研究グループはこれまで、CNT膜を水に浮かべると、水と接した部分が蒸発によって冷える蒸発冷却により、外部の熱源・冷源なしにデバイス内で自動的に温度差が生じることを見いだしてきました。
今回、この水面浮遊型CNT熱電発電デバイスに、紫外光を吸収して水素を生み出す光触媒であるg-C₃N₄を組み合わせました。g-C₃N₄をCNTに対して7.5%加えた複合膜では、CNTどうしの電気のつながりを保ったまま電荷の流れが改善し、熱電性能の指標であるパワーファクターがCNT単体の約2.6倍に向上しました。さらにg-C₃N₄の割合を高めると、デバイス内に生じる温度差が大きくなり、出力電圧はCNT単体の3.7 mVから最大5.1 mVまで増加しました。
本成果は、これまで別々に研究されてきた熱電発電と光触媒水素製造を、水に浮かぶ1枚の膜の中で同時に実現できることを示すものです。水とエネルギーの結びつき(ウォーター・エネルギー・ネクサス)という課題に応える、新しい多機能エネルギーハーベスティングの基盤になり得ると期待されます。
■研究の背景
◆IoT社会を支える独立電源への期待
ウェアラブルセンサやワイヤレスセンサネットワークをはじめとしたIoT(モノのインターネット)技術の発展には、配線や電池交換が不要な数多くの独立電源が求められています。その有力な候補の一つが、温度差から電気を生み出すゼーベック効果を利用した熱電発電です。しかし従来の熱電発電デバイスは、外部から熱を与え続け、温度差を保つための冷源も必要とするため、設置場所や用途が大きく制限されていました。
◆「熱源フリー」の水面浮遊型デバイス
この課題に対して本研究グループは、CNT膜を水面に浮かべ、膜の一部だけを水に触れさせることで、蒸発冷却によってデバイス内に自然に温度差を発生させる「熱源フリー」の水面浮遊型熱電発電デバイスを開発してきました。この方式はP型またはN型のどちらか一方のCNT膜だけで動作するため、長期間安定なN型CNTの作製が難しいという問題も回避できます。一方で、CNT膜が水を蒸発させる過程では水蒸気が発生します。水面という環境には、熱・光・水蒸気といった複数のエネルギーの「勾配」が存在しているにもかかわらず、従来の研究では発電か水素製造のいずれか単一の機能しか取り出せていませんでした。
◆光触媒g-C₃N₄との融合という着想
そこで本研究グループは、安価で化学的に安定な光触媒であるg-C₃N₄に着目しました。g-C₃N₄にCNTを組み合わせると、光で生じた電子をCNTの網目が素早く運び出し、電子と正孔の再結合を抑えることで、光触媒としての性能が高まることが知られています。この性質を、水に浮かべて発電するCNTデバイスに取り込めば、発電と水素製造を1枚の膜で同時に担えるのではないか、という着想に至りました。
■研究成果
◆デバイスの作製と評価
まず、エタノールに分散させた単層CNTに、すり潰したg-C₃N₄の微粉末をCNTに対して0~100%の割合で加え、超音波と撹拌で均一に混ぜた後、吸引ろ過によって直径約80 mmの複合膜を作製しました。(図2)次に、ポリイミド基板に4枚の複合膜を貼り付けて銀ペーストと銅線で直列につなぎ、水面浮遊型デバイスを組み立てました。これを水に浮かべ、波長365 nm・約1 kW/m²の紫外光を照射しながら、出力電圧と発生する気体を測定しました。(図3)

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図2 水面浮遊型CNT/g-C₃N₄複合膜の作製工程。 |

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図3 デバイスの組み立てと評価方法。ポリイミド基板に4枚の複合膜を直列接続し、水面に浮かべて紫外光を照射しながら発電試験(左下)と水素発生試験(右下)を行う。 |
◆発電と水素製造のしくみ
紫外光が当たるとg-C₃N₄の中で電子と正孔(プラスの電荷)の対が生じます。電子はCNTへ移動して再結合を抑えながら水素イオンを還元し、水素(H₂)を生成します。犠牲剤として加えたトリエタノールアミン(TEOA)は正孔を消費する過程で分解し、その分解生成物の一部としてメタン(CH₄)が生じたと考えられます。なお、分解の詳細な経路や生成する中間体については現時点では特定できておらず、今後の検討課題です。同時に、水に触れた部分が蒸発冷却で冷やされることで膜の面内に温度差が生じ、ゼーベック効果によって電圧が発生します。すなわち、一つの膜の中で「光触媒による水素製造」と「熱電発電」が並行して進みます(図4)。

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図4 紫外光照射下での電子の流れと水素・メタン生成のしくみ。g-C₃N₄で生じた電子がCNTへ移動し、水素イオンを還元してH₂を、TEOAの分解生成物からCH₄を生成する。 |
◆熱電性能と発電量
熱電性能を調べたところ、CNT単体の膜のパワーファクターは7.0 µW/(m・K²)でしたが、g-C₃N₄を7.5%加えると最大18.3 µW/(m・K²)となり、約2.6倍に向上しました。これは、少量のg-C₃N₄がCNTの網目の界面で電子の受け渡しを助けるためと考えられます。
水に浮かべたデバイスに紫外光を当てると、g-C₃N₄を含まないデバイスの平均出力電圧は3.7 mVでしたが、g-C₃N₄の割合が高いほど電圧は大きくなり、100%のデバイスでは5.1 mV(CNT単体比38%向上)に達しました。出力電圧から見積もった温度差は最大で約21 Kに達し、取り出せる最大電力もCNT単体の約3.8倍に増加しました。

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図5 紫外光照射時の出力電圧の時間変化。g-C₃N₄比率0%(黒)、7.5%(青)、50%(緑)、100%(赤)。g-C₃N₄の割合が高いほど出力電圧が大きく、100%で最大5.1 mVに達する。 |
水素については、純水のみでは得られませんでしたが、犠牲剤としてTEOAを加えると、水素とメタンの生成が確認されました。生成量はg-C₃N₄の割合が高いほど増加し、g-C₃N₄を100%加えたデバイスでは、紫外光を5時間照射した際に水素0.57µmol、メタン1.12 µmolが得られました。なお、本デバイスは犠牲剤を必要とするため、水だけを完全に分解して水素を得る「純粋な水分解」には至っておらず、メタンの生成は犠牲剤の分解に由来します。

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図6 紫外光を5時間照射したときの水素(青)とメタン(橙)の生成量。g-C₃N₄の割合が高いほど生成量が増え、100%で水素0.57 µmol、メタン1.12 µmolに達する。 |
■本研究の意義と今後の展望
本研究は、これまで別々に発展してきた熱電発電と光触媒水素製造を、水に浮かぶ1枚のCNT/g-C₃N₄複合膜の中に融合させ、その同時動作を実証したものです。柔軟で軽量、かつ重金属を使わない炭素系材料を用いているため、河川や貯水池、海面など多様な水環境で、その場でエネルギーと水素を生み出す「分散型・環境調和型」のエネルギーハーベスティングの基盤になることが期待されます。
一方で、本成果は強い紫外光を用いた原理実証の段階です。太陽光に含まれる紫外光はごく一部であるため、実用化に向けては、可視光をより有効に使えるg-C₃N₄系材料の開発や、自然太陽光下での性能評価、長期間にわたる繰り返し動作の安定性評価が今後の重要な課題です。さらに将来的には、排水中の有機汚染物質を犠牲剤の代わりに利用できれば、エネルギー回収と水浄化を同時に行える可能性があり、水・エネルギー・環境問題の同時解決に向けた新たな展開が期待されます。
■掲載論文
◇雑誌名:International Journal of Hydrogen Energy
◇論文タイトル:Water-floating nanostructured g-C₃N₄/SWCNT nanocomposite films enabling simultaneous thermoelectric power generation and photocatalytic hydrogen production(水面浮遊型ナノ構造g-C₃N₄/単層カーボンナノチューブ(SWCNT)複合膜による熱電発電と光触媒水素製造の同時実現)
◇著者:奥津玲音¹、落合秀弥¹、板橋達也¹、篠崎義之¹、中山大翔¹、源馬龍太¹˙²、高尻雅之¹˙²*(*責任著者)
1:東海大学大学院工学研究科 2:東海大学工学部応用化学科
◇掲載日:2026年6月25日(オンライン先行公開)
◇DOI:10.1016/j.ijhydene.2026.156207
<研究者のコメント>
東海大学工学部応用化学科 教授 高尻雅之
これまで別々に研究されてきた「発電」と「水素製造」を、水に浮かぶ1枚の膜の中で同時に動かせることを示せた点に意義があります。現時点では強い紫外光と犠牲剤を必要とする基礎研究の段階ですが、太陽光に多く含まれる可視光で動く材料へと改良できれば、川や池など身近な水辺でその場でエネルギーと水素を生み出す技術につながると期待しています。
【用語説明】
*1 熱電発電(ゼーベック効果)
材料の両端に温度差を与えると電圧が生じる現象を利用し、熱を電気に直接変換する発電方式。
*2 単層カーボンナノチューブ(CNT)
炭素シートを一層だけ筒状に巻いた、直径ナノメートル級の物質。軽量・柔軟で電気・熱の伝導性が高く、環境にやさしい熱電材料として注目されている。
*3 g-C₃N₄(グラファイト状窒化炭素)
紫外〜可視光を吸収する、安価で化学的・熱的に安定な光触媒材料。CNTと組み合わせると光触媒活性が高まる。
*4 パワーファクター(出力因子)
熱電材料の発電性能を表す指標。電気伝導率とゼーベック係数の2乗の積で表され、大きいほど高性能。
*5 犠牲剤(電子供与剤)
光触媒反応で生じる正孔を消費し、電子と正孔の再結合を抑えて反応を進める補助試薬。本研究ではトリエタノールアミン(TEOA)を使用した。
*6 蒸発冷却
液体が蒸発する際に周囲から熱を奪い温度が下がる現象。本研究では水に触れた膜の一部が冷え、発電に必要な温度差が自然に生まれる。
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<本件に関するお問い合わせ> 東海大学 学長室広報担当:喜友名(きゆな)、林 TEL.0463-63-4670(直通) E-mail:upr@tokai.ac.jp |

