過度な飲酒で心臓性突然死のリスクが約1.4倍に 「少量の酒は健康に良い」定説に一石、約1万人の30年追跡で判明 ~予防には「適量」より「減酒」、法医学と循環器疫学の融合による成果~

2026年10月05日

 東海大学[伊勢原キャンパス]医学部基盤診療学系法医学の磯崎翔太郎講師らの研究グループは、コペンハーゲン心臓研究に参加した10,100人を対象とする約30年間の追跡調査データを解析しました。その結果、週21単位(1単位=純アルコール換算で12g、350mlビール1缶に相当)を超える過剰な飲酒は、中等量(週8~14単位)の飲酒と比較して、心臓性突然死*1のリスクを約1.4倍に高めることが明らかになりました。

 これまで一部で示唆されてきた「少量の飲酒による心血管保護効果」については、本研究の対象である心臓性突然死においては明確な予防効果が確認されませんでした。本研究は法医学の知見に基づく厳格な死因判定と大規模コホートデータを融合させ、一般人口における飲酒量と心臓性突然死の関連を高精度に示したものであり、2026年8月20日付で欧州心臓病学会関連誌『European Journal of Preventive Cardiology』に掲載されました。

 

 

<本研究のポイント>

●約30年の長期追跡:デンマーク・コペンハーゲンの市民10,100人を1991年から2021年まで追跡し、心臓性突然死897件の発生を法医学的視点から厳密に検証

●過剰飲酒でリスク約1.4倍:週21単位を超える非常に多い飲酒群は、中等量飲酒群(週8~14単位)と比較して心臓性突然死のリスクが1.40(95%信頼区間1.08~1.81)に上昇

●少量・中等量飲酒に予防効果は認められず:これまで一部で示唆されてきた「少量飲酒による心血管保護効果(J字型関連)」は、心臓性突然死においては確認されなかった

●法医学と循環器疫学の融合:個人識別番号(CPRナンバー)を用いた質問票と死体検案書・診療録・警察報告書・剖検報告書の正確な紐づけ・医師による厳格な死因判定・大規模コホートデータの解析を組み合わせた高精度な検証となった

 

■本研究の背景:予防が難しい「心臓性突然死」と飲酒の関係

 心臓性突然死は心血管死亡の約50%を占める重大な健康課題です。その多くは前兆なく突然発症するため、リスクの低減につながる修正可能な生活習慣を明らかにすることが公衆衛生上の重要な課題となっています。飲酒は、高血圧、心筋症、不整脈などとの関連が知られており、法医学領域では、長年の大量飲酒歴を有する人に生じる突然死が「大酒家突然死症候群」として議論されてきました。しかし、一般人口において飲酒量が心臓性突然死リスクとどの程度関連するかについては、これまでの研究では追跡期間の短さや死因判定の方法上の限界から、一貫した知見が得られていませんでした。

 

■研究成果:非常に多い飲酒でリスクが有意に上昇

 本研究では、コペンハーゲン心臓研究の第3回調査(1991~1994年)に参加した10,100人を、2021年12月31日まで追跡調査しました。追跡期間の中央値は28.6年で、期間中に897件の心臓性突然死が発生しました。死因については、死体検案書、診療録、警察報告書、法医または病院での剖検報告書と質問票、個人識別番号(CPRナンバー)を用いて個人単位で正確に紐づけ、既存の判定プロトコルに基づき、2名の医師が心臓性突然死を厳密に判定しました。

 

 参加者を週あたりの飲酒単位*2で5群(非飲酒/少量:1~7単位/中等量:8~14単位/多量:15~21単位/非常に多い飲酒:21単位超)に分類し、中等量飲酒群を基準として比較しました。その結果、「非常に多い飲酒群」では心臓性突然死のリスクが1.40(95%信頼区間1.08~1.81)と有意に上昇しました。一方、「非飲酒」「少量」「多量」の各群では、統計学的に有意なリスク差は認められませんでした【図1】。心臓性突然死の人口標準化累積罹患率では、追跡20年時点で「非常に多い飲酒群」における心臓性突然死は約3.5%、「中等量飲酒群」では約2.8%でした。

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【図1】飲酒量と心臓性突然死の関連

 

 

 従来の一部研究では、少量飲酒に予防的な効果を示唆する「J字型」の関連が報告されてきましたが、本研究では「非飲酒群」と「中等量飲酒群」との間に心臓性突然死リスクの有意な差は認められませんでした。この結果は、少量から中等量の飲酒に明確な予防効果は認められず、「非常に多い飲酒」を減らすことが、集団レベルでの心臓性突然死リスクの低減につながる可能性を示唆しています。

 

■本研究の社会的意義:「適量飲酒による恩恵」より「過剰飲酒の回避」を

 本研究は、法医学における厳格な死因判定と大規模疫学データを組み合わせることで、飲酒と心臓性突然死の関連を高い精度で示しました。「少量から中等量の飲酒に予防効果は認められない」「非常に多い飲酒がリスク上昇と関連する」という結果は、心血管疾患予防における飲酒に関するメッセージングに重要な示唆を与えるものです。また、集団全体で過剰な飲酒を減らすハームリダクション*3の取り組みが、心臓性突然死の予防戦略として有用となり得ることを示しています。

 

■研究代表者コメント

東海大学医学部医学科基盤診療学系法医学 磯崎翔太郎 講師

 「心臓性突然死は、発症前に明らかな症状がないまま突然発生することがあり、その予防は重要な公衆衛生上の課題です。法医学領域では、長年の大量飲酒歴を有する人に生じる突然死が『大酒家突然死症候群』と関連づけて議論されてきましたが、一般人口において、飲酒量が心臓性突然死のリスクとどの程度関連するかは十分に明らかではありませんでした。今回、約30年にわたる長期追跡データを用いて検討したところ、週21単位を超える「非常に多い飲酒」が、心臓性突然死のリスク上昇と関連することを示すことができました。少量から中等量の飲酒に明確な予防効果は認められなかったことから、心臓性突然死の予防という観点では、飲酒による健康上の利益を期待するよりも、過剰な飲酒を避けることが重要である可能性があります。今後も、法医学における死因究明と疫学的なデータ解析を組み合わせることで、突然死の病態解明と予防につながる研究を進めていきたいと考えています。」

 

■論文情報

◇掲載誌:European Journal of Preventive Cardiology(欧州心臓病学会関連誌)

◇論文タイトル:Alcohol consumption and sudden cardiac death in the Copenhagen City Heart Study(飲酒量と心臓性突然死の長期リスク:コペンハーゲン心臓研究)

◇著者:磯崎翔太郎1,2,3、Tobias Skjelbred 1,2、Peder Warming 1,2、Jasmin Mujkanovic 1,2、Bo Winkel 1,4、Eva Irene Bossano Prescott 5、Jacob Tfelt-Hansen 1,2

  1. デンマーク王立病院循環器センター 心臓性突然死研究班
  2. コペンハーゲン大学法医学研究所 法医遺伝学部門
  3. 東海大学医学部 基盤診療学系法医学
  4. コペンハーゲン大学医学部 臨床医学部門
  5. ビスペビャウ・フレゼレクスベア病院 循環器内科

◇DOI:10.1093/eurjpc/zwag436

◇掲載日:2026年8月20日

 

 

【用語説明】

*1心臓性突然死:

「心臓に原因がある、ないし原因があると推定される突然死」のこと。本研究では、死体検案書・診療録・警察報告書・法医または病院での剖検報告書を用い、既存の判定プロトコルに基づいて、2名の医師が厳密に判定した。

 

*2飲酒単位:

純アルコール量に換算した飲酒量の指標。本研究では1単位=純アルコール換算で12g(缶ビール〔350ml、アルコール度数5%〕約1缶に相当)として評価した。週21単位は、缶ビール21缶(純アルコール約252g)に相当する。

 

*3ハームリダクション:

健康被害をもたらす行動を完全にやめることが難しい場合でも、その行動に起因する害をできるだけ少なくしようとする公衆衛生上の取り組みのこと。本研究においては、完全な禁酒が困難であっても、非常に多い飲酒レベルをより低いレベルへと減らすことが、集団全体における心臓性突然死リスクを下げるための現実的な予防戦略になり得ることを示している。

 

 

<研究に関するお問い合わせ>

東海大学医学部 基盤診療学系法医学 講師

コペンハーゲン大学法医学研究所 法医遺伝学部門 客員研究員

デンマーク王立病院循環器センター 心臓性突然死研究班 客員研究員

磯崎 翔太郎

TEL:0463-93-1121(代表)

 

 

<本件に関するお問い合わせ>

東海大学医学部付属病院 事務部事務課(広報)

 TEL:0463-90-2001(直通)E-mail:prtokai@tokai.ac.jp

 

 

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