深海魚との10年にわたる"かくれんぼ" ~ホラアナゴ科の隠蔽種の発見と新種記載~

2026年09月18日

ポイント

・積み重ねてきた調査・研究によって、深海魚の広域分布種に隠蔽種を発見。

・南日本産標本に基づきウナギ目ホラアナゴ科のホソオホラアナゴIlyophis fukuiiを新種記載。

・不明な点が多い深海魚の多様性解明への貢献に期待。

 

概要

 北海道大学総合博物館の田城文人助教と東海大学海洋学部の髙見宗広講師の研究グループは、駿河湾をはじめとした南日本の水深約1,500m以深から採集された標本に基づきホソオホラアナゴIlyophis fukuii Tashiro and Takami, 2026(ウナギ目ホラアナゴ科)を新種記載しました。

 ホラアナゴ科魚類の多くは深海底に生息し、大型海洋生物の遺骸を食べる種を含むことから、深海生態系を支える重要な生物群と考えられています。研究グループは、太平洋・大西洋・インド洋に広く分布するリュウキュウホラアナゴIlyophis brunneusと同定されてきた個体群の中に、尾部の太さが大きく異なる太尾型と細尾型の2タイプが存在することに着目しました。しかし、深海魚は採集が難しく、当初は標本数が少なかったため、両者を十分に比較できませんでした。そこで、10年以上の継続的な採集調査と、国内外の博物館・大学に所蔵される標本の調査を進め、稚魚から成魚までの80個体を超える形態データを集めました。その結果、2タイプは尾部の太さに加え、脊椎骨の数、鱗の形、側線管の長さでも明瞭に異なることが判明しました。さらに、外国の博物館に保管されているリュウキュウホラアナゴのホロタイプ標本と照合した結果、太尾型が同種に該当し、細尾型はこれまで学名のなかった未記載種であることが明らかになりました。今回の成果は、世界中に分布すると考えられてきた深海魚の中に、複数の隠蔽種が含まれる可能性を改めて示すものです。

 なお、本研究成果は、2026年9月16日(水)公開のIchthyological Research誌にオンライン掲載されました。

 

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新種ホソオホラアナゴ Ilyophis fukuiiの鮮時写真  

 

【背景】

 ウナギ目ホラアナゴ科は、多くの種が水深200 mより深い深海の海底に生息する魚類です。漁獲対象となる一部の種を除けば人の目に触れる機会はほとんどありませんが、深海底に沈んだ大型海洋生物の遺骸を食べる腐肉食者を含み、深海生態系を支える重要な生物群と考えられています。

 今回の発見のきっかけとなった駿河湾では、東海大学の調査船(望星丸・北斗)が定期的に深海魚の採集調査を行ってきました。調査では複数種のホラアナゴ科魚類が採集されますが、ごく稀にリュウキュウホラアナゴIlyophis brunneusも得られていました。本種は太平洋・大西洋・インド洋に広く分布する「広域分布種(コスモポリタン種)」として知られています。一方、このような広域分布種には、一見では区別が難しい別種(隠蔽種)が含まれることがあります。実際、過去には、リュウキュウホラアナゴから北日本に分布する別種が見つかっています。そして、駿河湾で採集されたリュウキュウホラアナゴを詳しく調べたところ、尾部の太さ(=尾部の体高)が大きく異なる二つのタイプ(太尾型・細尾型)が存在することに気が付きました。

 今回の研究は、深海魚と研究者との間で10年以上続いた"かくれんぼ"に終止符を打ち、1種を新種として記載・命名したものです。

 

【研究手法】

 研究開始当時の課題は標本数の少なさでした。2タイプでは標本の体の大きさにもばらつきがあり、十分な比較ができませんでした。そこで採集調査と標本調査を進め、標本数を増やすことにしました。

 駿河湾を含む南日本では、リュウキュウホラアナゴは水深約500~2,000 mで採集されます。しかし、このような深海での採集は容易ではありません。東海大学海洋学部には、福井 篤元教授と髙見講師が長年の試行錯誤で築いた、小型調査船と小型採集機材による深海魚採集の知見と技術がありました(図1)。そこで髙見講師が新たな標本の採集を担当し、年に数回の定期調査を継続することで、着実に標本数を増やしました。

 また、国内外の博物館や大学にも様々な海域のリュウキュウホラアナゴ標本が収蔵されていることが分かっていました。これらの調査は田城助教が担当し、北海道大学のほか、国立科学博物館、高知大学、京都大学、国立台湾大学、台湾中央研究院、米国国立自然史博物館などに収蔵された深海魚コレクションを網羅的に調査しました。

 

【研究成果】

 10年以上にわたる地道な標本収集により、合計80個体を超えるリュウキュウホラアナゴ標本の形態データが集まりました。これらは稚魚から成魚まで幅広い体サイズを網羅しており、比較の結果、予想どおり2タイプは尾部の太さで明瞭に区別できることが分かりました(図2)。さらに、脊椎骨の数、鱗の形、側線管の長さにも違いがあることが分かり、リュウキュウホラアナゴには2種が含まれることが明らかになりました。

 米国国立自然史博物館で保管されているリュウキュウホラアナゴIlyophis brunneusのホロタイプ標本(学名の基準となった標本;1888年に東部太平洋のガラパゴス諸島沖で採集)と照合した結果、太尾型がリュウキュウホラアナゴに該当し、細尾型は学名のない未記載種であることが判明しました。そこで、この未記載種を駿河湾から小笠原諸島沖及び琉球列島沖で採集された20標本に基づき、ホソオホラアナゴIlyophis fukuii Tashiro and Takami, 2026として新種記載しました。種小名「fukuii」は、福井元教授の長年にわたる深海魚研究への貢献をたたえて献名したものです。

 

【今後への期待】

 今回研究対象としたリュウキュウホラアナゴ属には、世界中に分布するとされる種と、限られた海域のみに分布する種が含まれています。代表的な広域分布種と考えられてきたリュウキュウホラアナゴから、さらに新たな種が見つかったことで、本種が本当に世界中に分布しているのかという疑問が生じます。一方、ホソオホラアナゴと形態的によく一致する個体が北西大西洋から、DNA塩基配列(ミトコンドリアDNAのCOI領域部分配列)がほぼ一致する個体がタスマニア沖や大西洋中央海嶺からも見つかりました。本研究ではこれら他海域の個体についてもホソオホラアナゴと判断しましたが、本当に同じ種なのか、それとも別の隠蔽種なのか、まだまだ調べることはたくさんありそうです。

 浅海魚では世界各国で分類学的研究が進み、世界中に分布すると考えられていた種が、詳しく調べると地域ごとに異なる複数種であることが次々と明らかになっています。一方、深海魚では採集そのものが難しく、詳しい研究はまだ十分に進んでいません。日本は世界有数の深海魚の水産利用国であり、種や海域ごとの集団(系群)を正しく理解することは、水産資源の持続的な利用や保全にもつながります。深海魚を対象とした研究には多くの困難がありますが、地道な調査を積み重ねることで、今後も新たな発見が期待されます。

 

【謝辞】

 本研究はJSPS科研費 JP20K06214、JP21K06300、JP26K02075及び藤原ナチュラルヒストリー振興財団の助成を受けたものです。

 

論文情報

論文名 A new cryptic species of the deep‑sea eel genus Ilyophis (Synaphobranchidae) discovered within Ilyophis brunneus Gilbert 1891(深海性ホラアナゴ科魚類リュウキュウホラアナゴIlyophis brunneus Gilbert, 1891から見出されたリュウキュウホラアナゴ属の隠蔽種とその新種記載)

著者名 田城文人1、髙見宗広2(1北海道大学総合博物館、2東海大学海洋学部)

雑誌名 Ichthyological Research(魚類学の専門誌)

DOI 10.1007/s10228-026-01082-x

公表日 2026年9月16日(水)(オンライン公開)

 

お問い合わせ先

北海道大学総合博物館水産科学館 助教 田城文人(たしろふみひと)

TEL 0138-40-8848  FAX 0138-40-5553

URL https://www.museum.hokudai.ac.jp/

東海大学海洋学部水産学科 講師 髙見宗広(たかみむねひろ)

TEL 054-334-0411  FAX 054-337-0239

URL https://www.u-tokai.ac.jp/

配信元

北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)

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メール jp-press@general.hokudai.ac.jp

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TEL 054-337-0144  メール koho-shizuoka@tokai.ac.jp

 

 

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【参考図】図1. 福井元教授らが開発した深海魚採集用ビームトロール(東海大学調査船北斗)。

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図2. ホソオホラアナゴとリュウキュウホラアナゴを見分ける尾部の太さと鱗の形の違い。

 

 

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