文理融合研究により、古代エジプトの「ファイアンス」の再現に成功~「国際ガラス歴史協会」の学会(9月4日~7日/トルコ・イスタンブール)にて発表~

2018年08月28日

東海大学文化社会学部アジア学科の山花京子准教授らの研究グループは、古代エジプトの護符や儀礼などに使用されていた、石英を主成分とする「ファイアンス」と呼ばれる物質の再現を可能にする製法を開発いたしました。なお、本研究成果は、9月4日(火)から7日(金)の期間、トルコ・イスタンブールで開催される「国際ガラス歴史協会」の学会にて発表いたします。

■本研究成果のポイント
・古代エジプトで陶器などに用いられていた「ファイアンス」は長い間、その製法が“謎”とされてきた
(組成分析により、石英、カルシウム、アルカリが含まれることは判明していたが、実際に使用された
材料や製造方法が不明だった)
・ファイアンスの主成分である石英(ガラスと同じ組成を持つ原材料)と炭酸カルシウム、アルカリを混合して水を添加して練り、造形物を作ろうとしても、立体造形や微細な装飾は不可能であった
(ファイアンスの練り粉は水で溶いた片栗粉のような性質を持つため)。この問題を克服し立体造形を作るために陶土を混ぜるしか方法がなかったが、陶土は古代エジプトのファイアンスには使われていないため、陶土を使わずに立体造形物を作る方法を模索し、今回のその方法を確立した
・化学工学の専門家である本学工学部応用化学科 秋山泰伸教授との共同研究により、石英・アルカリ・炭酸カルシウムの組成に漆喰(成分は水酸化カルシウム)を含ませることで材料に硬さを持たせることが可能になり、高さのある立体的な形状の成形が可能に
・今後の展望としては、古代エジプトの実際の陶器のサイズや質感により近づけ、博物館に「本物」と
 並べて、「触れることのできるレプリカ」としての展示を目指す


【研究の背景】
ファイアンスは、古代エジプト、メソポタミア(西アジア)などで紀元前約4500年から紀元前2世紀頃まで、トルコ石(あるいはラピスラズリ)の代用品として装飾品や墓の副葬品に使われていました。しかし、ファイアンスは製作工程が複雑で難しいことから、その後登場してきたガラスに取って代わられるようになり、次第に廃れました。成分分析をはじめとするこれまでの研究から、石英、カルシウム、酸素などが含まれていることは判明していたものの、その製法に関する情報が一切残されていなかったため、研究者の間ではファイアンスの製法は長年にわたって“謎”とされてきました。

【研究の成果と展望】
山花准教授は、長年ファイアンスの復元に携わってきました。これまで石英・アルカリ・炭酸カルシウムを混ぜた材料では立体造形が作れず、コップのような「立つ」形を作るためには陶土を混ぜるしか方法がありませんでした。しかし、陶土は古代エジプトのファイアンスには使われていないため、陶土を使わずに立体造形物を作る方法を模索していました。この問題を化学工学などを専門とする本学工学部応用化学科の秋山泰伸教授に相談したところ、秋山教授はピラミッドの石と石の接着剤としても使われていた水酸化カルシウムを主成分とする「漆喰」に着目。これを石英などに少量含ませて焼くことで立体的な構造物の成形に成功、ファイアンスの復元が実現しました。今後は、古代エジプトの実際の陶器のサイズや質感により近づけ、博物館に「本物」と並べて、来館者が「触れることのできるレプリカ」としての展示を目指し、研究成果を社会に還元する活動を進めてまいります。

■研究者略歴
氏名   :山花 京子(やまはな きょうこ)
所属・身分:東海大学文化社会学部アジア学科 准教授
専門分野 :エジプト考古学、古代エジプト学、古代エジプト美術史
研究テーマ:古代のガラスとファイアンス、古代エジプトの金属工芸、考古学と分析科学との文理融合研究
研究内容 :古代エジプトの社会や人々の生活を解明するために、考古学的・技術史的手法を用いて研究。
      研究対象となる地域は古代エジプトを中心に東地中海全域、対象年代は紀元前3000年頃から紀元前後まで
      (古代エジプト王朝の成立からクレオパトラ没の時代まで)。
      東地中海全域の物質文化の交流を主にエジプトの視点から研究中。
      また、本学の「古代エジプト及び中近東コレクション(AENET)」が所蔵する考古学遺物約6,000点、
      画像資料約15,000点を一般に公開すべく、 修復保存作業やデジタルアーカイブ化を進行中。
所属学会 :日本オリエント学会、日本西アジア考古学会、日本ガラス工芸学会、高輝度光科学研究センター利用者懇談会文化財研究会、
      American Research Center in Egypt,日本文化財保存修復学会

主な
論文・著書:<著書>
      「古代エジプトの歴史―新王国時代からプトレマイオス朝時代まで」(慶應義塾大学出版会、2010年9月刊)、
      「初めての古代エジプト―新王国時代編」(ブイツーソリュウ―ション、2009年4月刊)、
      「悠久のナイル―ファラオと民の歴史」(監修、東海大学出版部、2015年2月刊) ほか

氏名   :秋山 泰伸(あきやま やすのぶ)
所属・身分:東海大学工学部応用化学科教授 教授
専門分野 :化学工学、物理化学
研究テーマ:熱CVDの反応過程の研究、規則配列した微粒子による光学結晶の作製、CFDを用いた化学反応器設計
所属学会 :化学工学会、日本化学会、応用物理学会、無機マテリアル学会
主な
論文・著書:<論文>
      (1) Oscillatory Marangoni flow in half-zone liquid bridge of molten tin supported between two iron rods,
         J. Crystal Growth, 262, 631-644 (2004).
      (2) 減圧CVD法によるリチウムドープ酸化亜鉛薄膜の作製, Journal of the Society of Inorganic Materials,
         Japan, 23, 69 - 74 (2016). ほか
      <著書>
      「愛しの昭和の計算道具」(東海教育研究所、2013年3月刊)

■本件に関するお問い合わせ
東海大学 研究推進部 産官学連携センター 産官学連携推進課 担当:清水
TEL.0463-59-4364 FAX.0463-58-1812

■今回開発した成分を使ってエジプトの出土品を模して製作した作品例
▲カバの置物
▲ビーズ(ひなぎく型)(白色、中心部は赤)
▲食器(黄色)
▲壺(香油、軟膏などの容器に使用)

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